(1)情報モラルの必要性
近年、情報化の進展にはめざましいものがあり、「IT革命」と呼ばれるように急激かつ大幅な社会の変革が進行しています。社会の高度情報化に伴い、情報を主体的に選択し、活用できる能力が一層重要となっており、教育活動全体を通じてコンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段の積極的な活用が図られています。
情報化により有益な情報を容易に入手できるようになった反面、インターネット上には、法律で禁止されている物品の売買や、プライバシーの侵害、誹謗中傷など違法や有害な情報も多数流れており、児童生徒がこうした情報に偶然接触することにより、被害者となる危険性が常にあります。出会い系サイトや不正アクセス、架空請求などインターネットを悪用したネット犯罪は、年々増加する傾向を示しており、児童生徒を巻き込んだ様々なトラブルも起きています。また、児童生徒が不適切な情報を発信してプライバシーや著作権を侵害してしまうなど、無意識のうちに加害者となる場合もあります。
更に、児童生徒がインターネットや携帯電話に依存しすぎるため、情報に埋没してしまったり、現実体験と疑似体験を混同するなど心身の健康に様々な影響を与えていることが指摘されています。
情報モラルは、こうした情報化の影の部分に対応し、情報社会で適正な活動を行うための基となる考え方と態度といえます。ITには、全ての利用者が、情報の送り手と受け手の両方の役割を持ち、発信した情報は瞬時に世界に伝達され、大量の複製が可能であるなど特有の性質があります。社会生活を営む上で必要なルールやマナーは、インターネットを活用する場合も同様であると理解させるとともに、こうした特性を踏まえ、社会生活の中でITが果たしている役割と影響を認識させながら、情報モラルの必要性について考えさせることが大切です。
コンピュータや携帯電話が普及し、児童生徒が学校外で情報手段を活用することが多くなっています。家庭や地域と連携して、情報モラルの育成に取り組むことも必要です。
(2)指導項目
情報モラルの指導にあたっては、「何々をしてはいけない」という表面的な対処方法を身に付けさせるだけではなく、「なぜいけないのか」について、その理由を正しく理解させ、実際の問題場面に遭遇したときに適切な行動がとれる考え方と態度を育てることが大切です。そのためには児童生徒に分かりやすい事例を扱いながら、「自分ならどうするのか」を考えさせる活動を多く取り入れる工夫が必要です。
例えば、悪意の込められたWebサイトや電子メール等に遭遇した時は、「無視する」という態度が大切ですが、対処方法を間違うと個人情報を相手に教えてしまったり、迷惑メールが多数送られてしまったりといった事態を招く場合があります。児童生徒には、具体的事例を通して、このような場合の予備知識やトラブルに巻き込まれないための回避策を理解させておくことが重要です。
このため、本指導資料集では、情報社会を生きる児童生徒に付けたい力という観点から、具体的な課題を想定し、遭遇する機会が多く指導の必要性が高い指導項目を掲載しました。
(3)指導の計画例
各学校においては、教育活動全体を通じて情報教育が推進できるよう、各教科等の目標や内容及び相互の関連を踏まえ、年間指導計画を作成し、その中で児童生徒の実態や発達段階に応じて、情報モラルの指導を位置づけることが大切です。
分 類 |
コミュニケーションに関すること |
セキュリティに関すること |
消費者生活に関すること |
法律に関すること |
心身の健康に関すること |
対人関係に関すること |
付けたい力 |
情報交換や交流の知識や能力 |
情報保護等の知識や能力 |
消費者としての知識や能力 |
法律等の知識とそれに対する実践力 |
心身の健康に対する知識とそれに対する実践力 |
道徳性や倫理観 |
小学校 |
低学年 |
情報の信頼性 |
パスワードの重要性 |
|
著作権法 |
健康被害 |
|
中・高学年 |
文字だけのコミュニケーション |
Webページの公開 |
ソフトの売買・貸し借りのトラブル |
個人情報保護法 |
仮想現実 |
ひぼう・中傷 |
中学校 |
チェーンメール |
なりすまし |
インターネットショッピング |
出会い系サイト規制法 |
有害情報 |
人間関係の希薄化 |
コンピュータウイルス |
架空請求 |
高等学校 |
メディアリテラシー |
データの流出 |
悪質商法 |
不正アクセス禁止法, |
メディアへの依存 |
プライバシー |
指導項目間には、それぞれの内容に関連性があり、より高い学校段階の指導項目であっても、児童生徒の実態に合わせた内容として指導し、理解を深めていくことも必要です。
なお、盲・聾・養護学校においては、児童生徒一人一人の状況に応じて個別の指導計画に適切に位置づけて指導することが大切です。
これらの指導項目を指導の観点から整理すると、次のようになります。
小学校
指導目標 |
プライバシーの保護や著作権などの基礎的な情報モラルやマナーを育成する。
|
(低学年)
指 導 項 目 |
主な指導内容 |
各指導資料のページへ |
@情報の信頼性 |
情報の正誤を判断するために必要な技能 |
児童生徒用 |
教師用 |
Aパスワードの重要性 |
情報手段の管理に必要な基礎的な技能 |
児童生徒用 |
教師用 |
B著作権法 |
違法行為についての知識と回避策 |
児童生徒用 |
教師用 |
C健康被害 |
情報手段、情報技術の及ぼす悪影響 |
児童生徒用 |
教師用 |
(中・高学年)
中学校
指導目標 |
情報化の影の部分についての理解を深化させながら、情報モラルを育成する。
|
高等学校
指導目標 |
情報社会に積極的に参画し、よりよい社会にするために貢献しようとする意欲的な態度を育成する。
|
今後の情報化の進展や社会の変化に伴って、新たに指導項目を追加したり、緊急性、重要性の変化により、内容を更新したりすることが必要になる場合があります。
このような変化にも対応できるように、適宜見直しを行う予定です。指導の際は、ぜひ最新の情報を確認してください。
|