Q&A「医療や心理の専門機関を訪ねるときに大切なこと」
LD、ADHD、高機能自閉症等のある子どもへの支援には、専門機関との連携が大切です。医療や心理の専門機関との連携にあたっての留意点をQ&Aの形で整理してみました。
T 医療や心理の専門機関との連携(専門機関のフォロー)はなぜ大切なのですか。 |
「問題」が、何に起因しているかを専門的な視点から明らかにすることにより、その子の障害や特性にきちんと対応した支援の手立てを考えることが出来ます。 一見同じように見える子どもの状況でも、その原因が異なっていることがあります。専門機関では、数多くの子どもの診察や相談を行っており、子どもが呈している状態が何に起因しているのか、どのような視点を持って支援すればよいのかなどについての蓄積があります。 医学的な診断や投薬の判断は医師にのみ認められています。特に、投薬等による支援が必要な場合は不可欠です。 |
U 特に保護者や本人にとって、医療や心理の専門機関のフォローはなぜ大切なのですか。 |
医師の診断など専門機関における診断は、決して「レッテルを貼る」のが目的ではありません。本人の抱えている「問題」が「気持ちの持ちよう」や「育て方」によるものではなく、発達上の課題や障害に起因していることを周囲の大人が認識する大切な機会です。 発達上の課題や障害に起因する「問題」を抱えている子どもの中には、学校卒業後も継続して支援が必要な場合も少なくありません。医療や心理の視点から、定期的・継続的に支援を受けることが出来、必要に応じて生涯を通しての継続的な支援を受けることが出来ます。 発達上の課題や障害に起因する「問題」の場合は、成長するにしたがって「問題」の現れ方が変わっていくことが多く、中には成長の節目に深刻な症状を呈することがあります。そのような場合も、年少時から継続的にフォローを受けておくことによって、その子の発達の経過を踏まえたより的確で総合的な判断による支援を受けることが出来ます。 保護者がキーパーソンになり、子どもが大人になる課程で人的、物的な環境整備をしていくためにも、専門機関からの定期的なアドバイスは有効です。 |
V 多動が見られるので、すぐ受診するよう保護者に勧めたいのですが。 |
ちょっと待ってください。 何のために受診するよう勧めるのか、受診した後、学校としてどのように支援しているのかをもう一度しっかり考えてみましょう。 学校として子どもの見立てや支援の見立て(仮説)をせずに受診してもらっても、その後の学校での支援につながらないばかりか、保護者に無用な不安を強いることにもなりかねません。 学校での子どもの指導は保護者と連携して学校が責任を持って行う(子どもの状況を子どもの障害のせいにしたり、学校で教師が困っていることの解決を安易に保護者に求めない)、専門機関の助言を生かして「今、ここで出来る」手立てを工夫しながらその子を支援するという学校の姿勢を明らかにして保護者と相談を深める中で、保護者の希望を尊重しながら勧めることが大切です。 |
W 学校での指導方法を専門家に教えてもらいたいのですが。 |
ちょっと待ってください。 その子の発達上の課題や障害にはどのような特徴があり、医学や心理学の視点からはどのような配慮が必要かは詳しく説明してもらい、助言を受けることは大切です。しかし、学校でどのように指導するのかを考えるのは教育の専門家としての教師の仕事です。 仮に、医療や心理の専門家から「教室の中での手立て」について具体的な助言があったとしても、その内容を練り直して取り組まなければ効果は望めません。また、その手立てどおりにしてうまくいかなかったときに、助言の趣旨を生かした指導の手立てを工夫することが出来ません。 本事業の調査研究運営会議委員長で精神科医でもある友久先生が、「特別支援教育コーディネーター養成基礎研修会」の講義で次のような趣旨の話をされています。 「先生の中には、教室での指導法のハウツウを尋ねてくる人がいる。中には、教材の作り方まで尋ねる人さえいる。学校の先生が医者にどのような教材を使ってどう指導するかと尋ねるのは、医者が学校の先生に患者の治療法を尋ねるのと同じである。先生方は教育の専門家として、医者からの助言を生かしてもっと自分で指導法を考えてほしい。」 |
X それでは、医療や心理の専門家の助言を生かすためには、どんな点に留意すればよいでしょうか。 |
「自分にとってこの子がどれだけ大変か」というような教師の思いを聞いてもらうために相談するのではなく、「どのようなときに、どのような状態になるのか」「どのように働きかけたら、どのようになった。」という事実を冷静に整理して相談することが大切です。特に、肯定的なエピソードをできるだけたくさん示すことが有効です。 そのためには、仮にうまくいってなくても、指導の仮説を持って子どもへの指導をしていることが必要です。 相談する相手から問われる可能性のある情報(例えば、生育歴上の必要なエピソード等)を整理しておいて相談することが大切です。そのためには、良い関係の中で保護者との相談が進められていることが必要ですし、子どもの「問題」の原因についても仮説を持っていることが必要です。 なお、他の機関に情報を提供する場合には、本人又は保護者の了解が必要なことは言うまでもありません。個人情報の管理には十分留意してください。 特に、投薬のある場合には、投薬時刻と効果との関係について、事実に基づき整理しておくことが大切です。 たとえ指導が難しい子どもであっても、「医師の力で何とかしてほしい。」「手っ取り早くうまくいく方法だけ教えてほしい。」「どこか別の場で指導したり、誰か別の教師が付いて一対一で指導すべきだと言ってほしい。」という思いを持って相談した場合には、専門家に相談しても得るものはほとんどありません。 もちろん、自分の指導の責任だとして一人で抱え込むことは最も良くないことですが、「この子のために、“教育の専門家である自分”には何ができるか」、「教師である自分しかできないことを見つけたい」という気持ちが大切です。こういう気持ちを持ちながら、事実を冷静に整理して相談すれば、必ず得るものがあります。 |
目 次 | はじめに | 構成と使い方 |
第1部 | |||
1.聞くことが苦手 | 2.うまく話せない | 3.読むことが苦手 | 4.うまく書けない |
5.計算が苦手 | 6.文章題が苦手 | 7.まわりが気になって | 8.わかってるんだけど |
9.衝動的に動いてしまう | 10.人との関係が | 11.コミュニケーションが | 12.なにか気になって |
・不器用な子ども | ・行動上の問題 |
第2部 | |||
・学校体制 | ・学校を支援するシステム | ・宇治市における取組 |
第3部 | |||
・精神科医から | ・小児科医から | ・作業療法士から | ・臨床心理士から |
・保護者から | ・保護者の手記 | ・Q&A |