精神科医からのメッセージ
専門家チーム委員(精神科医) 有賀 やよい
「学習障害児に対する指導体制の充実事業」、「特別支援教育推進体制モデル事業」で専門家チームに加わって丸3年。この事業を通して出会った元気のいい子どもたちと、悩める保護者や学校の先生方の数も、等比級数的増加の一途をたどっている。巡回相談や研修会を入れると、この3年間は、病院よりずっと長く学校で仕事することになった。それぞれの先生が工夫を重ねた細かい手立てが成果を上げ、子どもたちが学校で生き生きし始めているのを実感でき、嬉しい限りである。
ここで、今まで行ってきた精神科医としての関わり方を簡単に紹介したい。
1 精神医学的診断の順序
(1) 知的障害ではなく、社会心理的要因(児童虐待を受けたなど)からくる行動や情緒の障害、てんかんや他の精神障害(躁うつ病や統合失調症など)の症状ではないことの確認。
(2) 現在の状態像が、DSM-WまたはICD-10の記述式診断の次の項目に該当すること。
・学習障害(LD) ・注意欠陥多動性障害(ADHD) ・広汎性発達障害(PDD)
ただし、いずれかひとつ、もしくは任意の2つ以上の組み合わせがあり得る。
2 認知行動パターンの把握
脳波検査や頭部MRIなどの補助検査と発達検査、神経心理学的検査の分析より、認知機能や運動機能、行動パターン、対人関係の特徴を把握する。
3 治療
薬物療法では、中枢性興奮剤、抗てんかん薬、抗精神病薬のいずれかを、状態に合わせて、どのような改善を目標に投与するかを明確にし、服薬時間、回数、投与量を調整する。
行動療法や精神療法については、個々の子どもの特徴と環境に応じて組み合わせる。
4 問題点
(1) 診断の際に必要となる「同年齢の子どもたち、同じ発達年齢の子どもたちと比べて明らかに不適応的」の判断で、主観を排除しきれない。
(2) 通常、年齢が上がるにつれ状態像が変わる(多動傾向の減少、コミュニケーション能力の発達など)が、過去の診断名が残ったままなので、今では不適切な対応の原因になっていることがある。
(3) 特にADHDについては、不注意優勢型の診断基準に含まれる病因や病態がまちまちなので、治療や対応に結びつきにくい。より実態に即し、治療と結びつく下位分類が必要である。
特別支援教育の裾野が広がるにつれ、今求められているのは、2で述べた子どもの認知や言語・運動・対人関係のなどの特徴を、脳の解剖学や生理学に添った形で読み解くことである。これが充実すれば、現場の先生方に対して、合理的かつ直接役立つ支援方法のヒントが今以上に提供可能となり、精神医療と特別支援教育との連携がますます発展するものと信じている。
今後ともよろしくお願いします。
目 次 | はじめに | 構成と使い方 |
第1部 | |||
1.聞くことが苦手 | 2.うまく話せない | 3.読むことが苦手 | 4.うまく書けない |
5.計算が苦手 | 6.文章題が苦手 | 7.まわりが気になって | 8.わかってるんだけど |
9.衝動的に動いてしまう | 10.人との関係が | 11.コミュニケーションが | 12.なにか気になって |
・不器用な子ども | ・行動上の問題 |
第2部 | |||
・学校体制 | ・学校を支援するシステム | ・宇治市における取組 |
第3部 | |||
・精神科医から | ・小児科医から | ・作業療法士から | ・臨床心理士から |
・保護者から | ・保護者の手記 | ・Q&A |