「特別な教育的支援を必要とする子ども」を支援する学校体制
チームとして取り組むことが不可欠
各学校におけるこのチームが「校内委員会」
特別支援教育の基本的なスタンスは、障害のある子どもに対して「特別の場で(特別の場だけで)、特別の先生が、特別の指導をする」ことから、「子どもに関わるすべての人が、連携しながら、それぞれの場で適切に支援する」ことへの転換です。
どんなに子ども理解に優れ、どんなに指導力のある先生が一人だけで頑張っても、子どもに関わる他の人々の関わりが不適切では有効な支援にはなりません。また、担任の先生個人がとらえたその子の実態や工夫してみた手立てがその子の認知特性などに合っているとは限りません。もし、その子の認知特性などに合わない特別な手立てがされたら、子どもはかえって辛い学校生活を送らなければならなくなります。
そのためには、「個別の指導計画」や「個別の教育支援計画」によって指導や支援のプログラムを明確に設定して、保護者を含めた関係者の共通理解の下に実践し、その結果を評価して次の指導や支援に反映させていく(Plan-Do-Seeのしくみを確立して実践する)ことが必要で、チームとして取り組むことが必要になります。
各学校におけるこのチームが「校内委員会」です。
T 「校内委員会」の具体的な役割は何ですか?
@LD、ADHD、高機能自閉症等を含め、特別な教育的支援を必要とする子どもに気付き、一人一人の実態把握を行う。
特別な教育的支援を必要としている全校の子どもを把握する。
特に、教職員間で共通理解をして関わることが必要な子どもについて情報交換をし、共通理解の内容を検討する。
支援を必要としている子どもの実態をつまずきの内容とその要因等を相互に関連付けながら総合的に整理し、その配慮や支援の内容について検討する。
A特別な教育的支援を必要とする子どもへの指導をサポートする。
子どもの指導や保護者との相談について担任等にアドバイスを行う。
必要な校内支援体制の整備について検討したり、その運営をする。
特別な教育的支援を必要とする子どもの理解や支援についての研修を企画し、運営する。
教育相談の窓口を設置したり、必要に応じて保護者との教育相談に関わる。
B関係機関や地域との連携を行う。
医療機関、福祉機関、他の教育機関や地域等との連携を行う。
U 「校内委員会」は新たに作るべきですか?
新たに設置した学校もあれば、障害児教育や教育相談の校務分掌をもとにして、活動内容を充実させた学校もあります。
新たに設置したところでは、「今までの慣習にとらわれない動き方をしたい。」という意図が伺えます。また、障害児教育や教育相談等の分掌を「個別支援」全体を統括する校務分掌として統合し、整備したところもあるようです。
V 「校内委員会」の構成はどうすればいいのでしょうか?
モデル事業の中では、「校長、教頭、担任教師、その他必要と思われる者」と例示されていますが、A校で最適の構成であってもB校では学校の実態に合っているとは限りません。また、実際に動いてみなければ、十分に機能するかどうかは分かりません。
機能的に活動できる構成を考えましょう。
また、個々のケースに対する具体的な支援方法を考え合うための会合と、システムを検討するための会合では参加すべきメンバーが違って当然です。臨機応変に参加メンバーを変えるなど、機能的に活動できる開催方法も考えましょう。
W 「校内委員会」には校長や教頭など、管理職は入るのでしょうか?
モデル事業の要項に基づき校長や教頭等の管理職が入っているところが多いと思われますが、他の校務分掌との整合性から入っていないところもあるようです。
ただし、この校内委員会は研究や協議だけを行うのではなく、保護者や地域、他機関との連携に関わるものであるため、一定の権限や責任が必要になることに留意することが大切です。
上記の機能を持つことが出来るなら、必ずしも委員会組織にせず、他の校務分掌と同様の「部」の形態でも差し支えありません。
X 「校内委員会」という名称にしなければいけないのですか?
その必要はありません。従来の名前のままでもかまいません。
ただし、このチームの役割は、単に就学の場を協議するためのものではありませんし、ましてや「保護者を説得する」方法を検討するためのものであってはなりません。したがって、例えば「校内就学指導委員会」をもとにして活動する場合などは、Tにあげた新たな役割が反映される名前を工夫するのがいいのではないでしょうか。
校内委員会の「核」、連携の「要」になる「特別支援教育コーディネーター」
校内委員会がどれだけその役割を果たしていくことができるか、また、チームで取り組むということが単なる理念で終わらず、一人一人の具体的な支援につながるか否かは、校内委員会の核となる教員の動きにかかっています。
特別支援教育コーディネーターは校内委員会の核であり、連携の要です。
T 「特別支援教育コーディネーター」は何をすればよいのですか?
@校内委員会のリーダーとして校内支援体制の中心となり、校内の調整を行う。
特別な教育的支援を必要とする子どもを把握する。
子どもを支援する教職員相互の調整を行い、担任や保護者を支える。
校内の資源を活用した支援(通級指導教室、オープン教室等の特別の場や指導補助員等の関わり)の在り方について校内のシステムを統括する。
教職員が理解を深める取組の中心となる。
A必要に応じて、保護者や他の教育機関、医療機関、福祉機関との連携や調整を行う。
スクールカウンセラー、他校の通級指導教室、盲・聾・養護学校、市町村教育委員会の教育相談窓口、教育センター等との連携を図り、調整の窓口となる。
保護者や医療機関、福祉機関等との連携を図り、調整の窓口となる。
B子どもへの具体的な支援内容を明らかにするチームの要となり、担任等に対して、具体的な指導や対応について、アドバイス等の支援を行う。
個別の指導計画を担任と共に作成したり、個別の指導計画を作成するときに支援をする。
認知特性などを踏まえた指導や対応について、担任等へのアドバイスを行う。
校内の資源を活用した支援についてアドバイスを行う。
相談支援チーム(巡回相談員や専門家チーム)への報告内容を整理してケース会議等に参加するとともに、専門家の助言内容を分かりやすく校内に伝えたり、その助言に基づく実現可能な手立てを検討し、個別の指導計画や個別の教育支援計画に反映させる。
@とAは、「コーディネーション」の機能、Bは「コンサルテーション」の機能です。「特別支援教育コーディネーター」にはどちらの役割も期待されますが、少なくとも@とAは必須です。Bは専門性のある他の教員が行うことにしてもよいでしょう。
また、@とAついても、「特別支援教育コーディネーター」が一人で行うものではありません。一人で請け負っていてはチームとしての支援にならないことに留意しましょう。コーディネーターは「主役」ではありません。「主役」は、担任の先生、保護者、その他その子どもに関わる人々です。「特別支援教育コーディネーター」は、あくまでも、子どもを支援する人と人とをつなぐことを通して、一人一人の子どもに応じた支援を紡いでいく連絡・調整役です。
U 「特別支援教育コーディネーター」は障害児教育の経験者でなくてはならないのでしょうか?
そんなことはありません。Tの@とAで述べたコーディネーションの役割は、障害児教育の 経験者の方が堪能だとは限りません。
また、Bで述べたコンサルテーションの役割も、LD、ADHD、高機能自閉症等の子どもたちの多くが通常の学級で学んでいることを考えると、集団の中で様々な子どもを指導してきた先生(集団の中での個別指導や個に応じた指導の経験のある先生)の方が支援のノウハウを
持ていることも考えられます。
ただし、障害についての必要最低限の知識を持っていることが望まれますが、これについては、「養成研修会」等を活用してください。
V 「特別支援教育コーディネーター」に求められる資質・能力は何でしょうか?
以上の役割を持つ「特別支援教育コーディネーター」に求められる資質・能力については、独立行政法人国立特殊教育総合研究所知的障害教育研究部研究室長の徳永豊氏が次の4つをあげておられます。
コミュニケーションスキル(関係者の意見を聞き、支持をしながらまとめる。)
時間管理スキル(業務の優先順位を判断し、効果的に時間を管理する。)
リーダーシップスキル(信頼を得、連携を効果的に進めるために助言する。)
課題解決スキル(関係者と相談しながら適切に判断し、処理する。)
コーディネーションの役割が必須であることを考えると、人との関係をつくることが好きな人が向いており、人との関係をつくるのが苦手な人や、意見や立場の違う人とすぐ対立する人は向いていないのではないでしょうか。また、慎重な人よりも、好奇心が旺盛で、フットワークのよい人、失敗を恐れず前向きにチャレンジするのが好きな人が向いているのではないでしょうか。
W 「特別支援教育コーディネーター」は決めておかなければならないのですか?
「Plan-Do-See」のサイクルによる個々の子どもの支援を統括し、保護者や地域、他機関との連携に関わる校内委員会の核及び連携の要としての位置付けを明確にしておく必要がありま す。したがって、校長の権限と責任において、分掌に明確に位置付けておくことが大切です。