小児科医からのメッセージ
専門家チーム委員(小児科医) 小谷 裕実
本年度より京都府の専門家チームに加えていただき、巡回相談では、これまで保護者や教諭経由でしか聞けなかった子どもの姿を直に見るという機会に恵まれた。
まずは、このチームでのケース検討に名乗りを上げてこられた先生方に、感謝したい。先生方の中で、人から子ども理解とそれに基づく指導内容の評価を受ける勇気を持ち合わせている方がどれだけいるであろうか。様々な職種の集まりである専門家チームは、それぞれの専門性をいかんなく発揮して、担任の指導から学校体制に至るまでしっかり、はっきりとアセスメントをする。普通の学校では、この鋭い矢に耐えうる力があるかどうか疑問である。
さて、小児科医が病院を飛び出し、学校に入って何をするか。
挨拶もそこそこに、他のメンバーと共に子どもの様子をできるだけ自然な形で観察する。市町村のコーディネーターや担任の先生たちがまとめたアセスメント票をもとに様々な方向から質問して得た情報を加えて、「診断仮説」を立て、医師の立場から助言する。
ここでは診断でなく、あくまで「診断仮説」であることを強調しておきたい。小児科の場合、診断は保護者が病院に連れて行き、初めて下されるべきものである。また、成人の場合とは異なり、保護者といったキーパーソンなしには治療につながらないのが子どもの治療の大原則である。保護者は、子どもの病気のサインをみつけ、速やかに医療機関に連れて行き、必要な医療を受けさせる義務がある。身体疾患の場合には、誰もがその必要性を疑うことがない。
問題は、発達障害の場合である。発見できなくても命に別状はないし、多くの場合「学校不適応」という形で症状が現れ、「本人のせい」にされてしまう。確かに生命に別状はないが、「生き地獄を味わわなければならない子ども」が後を絶たない。子どもの立場に立って考えると、保護者も学校も共に、適切な養育・教育をしたかどうかを評価されるべきである。今後、このような子どもたちの症状を見落とし、不適切な養育・教育をしたとして、責任が追及されることも想定されよう。
この一年間、専門家チームでのケース検討、巡回相談でのケース相談で出されてくる先生方の評価がかなり正確であり、ADHD、高機能広汎性発達障害ではないかと見当をつける目もかなり鋭いことがわかった。認知機能の評価を行い、指導仮説を立てる力も育ち始めている。
一方、まだまだ課題として残っていることは、従来の指導法にとらわれない個別教育プログラムの充実と体系化、その見直しと修正ができる力量と組織力、そして何よりも保護者と信頼関係を築き、保護者を教育のパートナーとして引き寄せ、育て、連携を図ろうとする学校の姿勢であると考える。まずは正しく、子どものアセスメントと共に自分たちの教育のアセスメントをして、問題点を整理する。そして、キーパーソンである保護者に寄り添い共に歩む構えを示し、保護者と相談しながら子どもに応じたプログラムを考えていこう。
私たちの理解や教育に不備があれば、子どもたちがリトマス紙となり、私たちにすぐに知らせてくれる。このような子どもたちの反応を、早く読みとる感性こそ、われわれ大人に求められていることである。
目 次 | はじめに | 構成と使い方 |
第1部 | |||
1.聞くことが苦手 | 2.うまく話せない | 3.読むことが苦手 | 4.うまく書けない |
5.計算が苦手 | 6.文章題が苦手 | 7.まわりが気になって | 8.わかってるんだけど |
9.衝動的に動いてしまう | 10.人との関係が | 11.コミュニケーションが | 12.なにか気になって |
・不器用な子ども | ・行動上の問題 |
第2部 | |||
・学校体制 | ・学校を支援するシステム | ・宇治市における取組 |
第3部 | |||
・精神科医から | ・小児科医から | ・作業療法士から | ・臨床心理士から |
・保護者から | ・保護者の手記 | ・Q&A |