保護者の手記



 今年中学校を卒業するお子さんを持つ保護者(京都LD親の会会員)の手記
 (小・中学校を振り返って)



「僕はクラスの中で一番頭が悪い。」と帰宅して泣いた小五の春から五年。この春には義務教育を終了し、自分で決めた世界へ足を踏み入れようとしています。

 学校生活がうまく出来なくなったとき、「何か変?」を個性としてとらえ、LDを理解してもらうための、まさに「闘い」の日々でしたが、進行形のまま春を迎えようとしています。
 子どもと密接な関係を持つ学校と家庭。どちらも子どもを思う気持ちを大切にしているはずなのに、思いが交わることなく平行線のまま流れていく時間。そこには、学校の閉鎖性と担任が変わるたびの「リセット」を感じました。
 相談機関と連携をとるなどの処置がなかったり、親との話し合いはあっても、子どものありのままの姿を受け止めるのではなく、学校の範疇に子供を取り入れようとされているように感じました。なぜ、わからないことをわからないと言えないのか。考えなければならないことが何であるのかさえわかっていない、理解しようという態度が感じられないときもありました。
 また、子どもが興味を持ち取り組んでいたことが、担任が変わることで「リセット」されていく現実。担任だけで子どもを囲ってしまう「担任王国」でなく、学校全体が共通理解の下、連絡を強化し、関係維持に継続性を持たせて欲しいと思います。
 さらに、学校とうまくつながらないから、教育委員会を訪ねることもあります。教育委員会も、学校が子どもを理解し子どもと向き合えるよう、支援して欲しいと思います。

 親は子どもにLDやADHDのレッテルを貼りたいのではありません。レッテルを貼らないと子どもへの対処を理解してもらえないからLDやADHDという言葉を使いながら理解を求めてきたのです。
 親がその言葉を口にする前に、教師が一人一人の個性を認め、一人一人の子どもを理解していただきたいと思います。そして、教師が過ごし易いように子どもを造るのではなく、子ども一人一人は輝くような可能性を秘めた個人であるという思いを強く持って関わっていただきたいと願っています。



成人したお子さんを持つ保護者の手記
 (学校生活と子育てを振り返って)



障害が分かって20年。今も娘は日常生活の中で多くの手助けを必要としている。
 そうは見えないけれど、例えば、自分の体や髪を洗うこと、身のまわりの整理、お金の計算、字を書いたり手作業など難しいことがたくさんある。
 理解してもらいにくいし、多くの不便さをそのまま抱えている。また、不調の時期もあるし、薬もここしばらく飲み続けなければならない。
 それでも、生き生きと仕事に通い、休みには好きなだけ寝ている。買い物も外出も好き、家の手伝いも少しはする。家族と食事を楽しく摂れるし、おしゃべりも出来る。年齢なりにお洒落や音楽に興味を持ち、不十分だけれど彼女なりに気持ちを伝えながら人と関わっている。
 今は、当たり前に暮らせているかなと思う。

 こんなふうに障害を抱えていても、周りや家族に支えられて普通に暮らせるとは、小さい頃は考えていなかった。先は暗く、不安が大きく、どうなってしまうかと思っていた。と言うか、私の中の「普通」の概念もこの20年で大きく変わったけれど。

 当時、LDと診断されたけれど、理解してもらうことは難しかった。
 学校という「みんないっしょ」の世界の中では、障害児も「ひとくくり」だった。担任の先生に「こういう方法でなら・・・・」と恐る恐る伝えても、一人一人違った方法で教えるという発想はなかったようだ。もっとも、親だって付き合いながら理解できるようになったのだけれど。
 20年経ってようやく最近はLD、ADHDの名前が知られ始め、当時は考えられなかった個別支援(個別指導のことではなく、一人一人の分かり方等、個々のニーズが違って当たり前であることを前提に、その人にあった支援をすること)という言葉も耳にするようになった。求めれば、情報もたくさんある。そうは言っても、現実に学校で個別支援がされるのはまだ先のことだろうし、名前が先行してマイナスもあるかもしれない。援助を必要としている子ども一人一人に必要な手が差し伸べられることを祈りたい。

 理解をするということは本当に難しい。でも、理解が難しくても、「ここに居ていいんだよ。」「人と違ってもそのままでいいんだよ。」と一人一人に肯定的なメッセージを伝えていくことは最低限必要だし、それがとても大切なことだと思う。
 理解しようとしても難しい場合、どうか何よりも暖かい目で、評価せずに見守ってほしい。教師の手立てが通じないときも、子どものせいにしないでほしい。その手立てがうまくいかず子どもを混乱させておいて、冷たく放っておくことはないようにしてほしい。

 「支えられている。」という気持ちを持つことが出来たら生きていける。
 これからも、娘がささやかでも地域で当たり前の暮らしを長く続けられることを心から願っている。


目  次 はじめに 構成と使い方

第1部
1.聞くことが苦手 2.うまく話せない 3.読むことが苦手 4.うまく書けない
5.計算が苦手 6.文章題が苦手 7.まわりが気になって 8.わかってるんだけど
9.衝動的に動いてしまう 10.人との関係が 11.コミュニケーションが 12.なにか気になって
・不器用な子ども ・行動上の問題

第2部
・学校体制 ・学校を支援するシステム ・宇治市における取組

第3部
・精神科医から ・小児科医から ・作業療法士から ・臨床心理士から
・保護者から ・保護者の手記 ・Q&A