第1部の各項で紹介した子どもの中には、身体のぎこちなさがあったり、極端に手指が不器用な子どもがいます。 この子どもたちは、すべきことは分かっているのですが、思ったとおり体や手指などをコントロールすることが難しいのです。
例
黒板の文字をノートに写すとき、形がうまくとれずに時間がかかり、最後まで写すことができない。
消しゴムの使い方が下手で、強く消し過ぎてしまい、ノートがやぶれてしまう。
彫刻刀を使って思うように彫ることができず、時間がかかってしまう。
スキップやなわとびなど、小学校の中学年になっても思うようにできない。
鋏などを使って紙をうまく切ることが出来ない。
この子どもたちは、教師がしっかり様子を見て理解していないと誤解されてしまいます。
教師から「はやく写しなさい。」「どうしてノートをやぶってしまうの。」「先生の話を聞いていないからちゃんと彫れないんだよ。」「友だちのやっているのを見たらできるでしょ。」「線に合わせて切ったらいいだけでしょ。」などと言われて、自信を失ってしまうケースがあります。粗大運動や微細運動がうまくいかずに苦労していることをなかなか理解してもらえず、怠けたり、いい加減にしていると思われてしまうのです。
このような対応をしていると、「先生はわかってくれない。どうせ練習をしても下手だから。」「どうせ『遅い』と叱られるから、やっても無駄だ。」という気持ちになってしまいます。
不器用な子に対しては、本人が一番苦労していることを理解するとともに、その特性に応じた体全体への働きかけや手指のいろいろな感覚を体験的に学ぶ支援をすることが必要です。
また、不器用な子どもに対してだけではなくすべての子どもへの支援の際に最も大切なことは、自信と意欲を育てるために、少しの変化を認めて誉める(プラスの評価をする)ことです。「自分でできた」という満足感や達成感が持てるような支援を行い、「自己有能感」を育てることが大切です。
誉めるときには、他の子と比べて誉めるのではなく、その子自身がどれくらい変容したかに目を向けて誉めること、結果ばかりではなくプロセスや努力している点を見つけて誉めることが必要です。
また、子ども自身も「なるほど。」と思えるような誉め方をしたいものです。そのような誉め方をするためには、その子の立場に立ってその子の困難を理解し、その子の変化をプラス思考でしっかりととらえることが必要です。
どんな子どもに対しても言えることですが、特にLD、ADHD、高機能自閉症の子どもや著しく不器用な子どもに対して、漫然と「よくできた。」、「がんばったからできた。」、「自信を持ってしなさい。」と励ますだけでは効果がないばかりか、「自己有能感」を育てることにはつながらないので気をつけたいものです。
目 次 | はじめに | 構成と使い方 |
第1部 | |||
1.聞くことが苦手 | 2.うまく話せない | 3.読むことが苦手 | 4.うまく書けない |
5.計算が苦手 | 6.文章題が苦手 | 7.まわりが気になって | 8.わかってるんだけど |
9.衝動的に動いてしまう | 10.人との関係が | 11.コミュニケーションが | 12.なにか気になって |
・不器用な子ども | ・行動上の問題 |
第2部 | |||
・学校体制 | ・学校を支援するシステム | ・宇治市における取組 |
第3部 | |||
・精神科医から | ・小児科医から | ・作業療法士から | ・臨床心理士から |
・保護者から | ・保護者の手記 | ・Q&A |