臨床心理士からのメッセージ



専門家チーム委員(臨床心理士) 今野 芳子 



 障害児教育が特別支援教育へと変わりつつある時に特別支援教育推進体制モデル事業の専門家チームに入れていただき1年が経ちました。専門家チームでは臨床心理の立場から意見を述べさせていただきましたが、気づいたことを整理してみましょう。



1つは、校内委員会の充実と支援体制の広がりについてです。

一人一人の子どもに対する総合的な教育支援体制の必要性は、スクールカウンセラーとして活動を開始したときから痛感しています。
 不登校などの子どもの援助に当たっては、まず派遣された市町村の地域資源を探し出し、リストアップすることからスタートします。次はその地域資源に足を運び、自分の目で見、聞き話し、一人一人の不登校の児童生徒への支援体制を組んでいきます。このように心理臨床の世界でも今や学校内だけでなく、病院やフリースクール、行政の機関など学校をとりまく資源を総合的に活用して支援する体制が必要となっています。
 この特別支援教育推進体制モデル事業でも、医療・福祉・心理・教育等の各分野のスタッフで構成される専門家チームでケース検討が行われ、また、学校に赴いて子どもの様子を参観しながら協議することができました。訪問するたびに、校内委員会やコーディネーターの先生の説明がわかりやすくなってきており、事業の浸透ぶりが感じられます。



2つ目は、相談が低学年から始まるようになり、特別な教育的支援を必要とする子を早期からつかんできていることです。

 中・高学年、中学生と年齢が高くなるほど、困難を抱えてしまったADHDや高機能自閉症の子どもは自己評価が低くなり、自分を「だめな自分」と感じ、保護者は「育て方の下手な親」と感じ苦しむことが多くなります。「早い気付き」による適切な対応は、こじれ(二次障害の発生)を少なくし、本人も保護者も「等身大の自己評価」をしながら、楽に生活できることにつながります。



3つ目は、支援と配慮のためのポイントとなる状況を的確に把握され整理されてきていることです。

 先生方の報告も、「・・・・できない」「・・・・しない」に代表される「ないないづくし」の表現が次第に少なくなり、「○学期には・・・・するようになった」「教師が・・・・のような支援の工夫をしたところ、・・・・できるようになった」という報告に変わってきています。そこには、子どもの困難な状況を子どもの障害のせいにするのではなく、支援内容との関係でとらえ、確実に支援のポイントを把握されてきていることを感じます。



最後に、子どもへの支援を臨床心理の立場で見ていくとき、次の点が大切になります。

@先生や保護者の問題とされる「子ども像」の背景に社会心理的な要因が絡んでいるかどうか、二次障害の有無や程度はどうか 
A社会心理的な問題がからんでいるとすれば、発達のどの段階のどんな課題か 
B原因の如何を問わず、その課題をくぐる芽が今の環境にあるかどうか、環境を改善していく家庭と学校のキーパーソンは誰か 
C学校と家庭のキーパーソンは、どんな見通しを持ちながら関わっていくのか

 この事業がすべての子どもの実態の把握と援助の助けとなればと考えています。


目  次 はじめに 構成と使い方

第1部
1.聞くことが苦手 2.うまく話せない 3.読むことが苦手 4.うまく書けない
5.計算が苦手 6.文章題が苦手 7.まわりが気になって 8.わかってるんだけど
9.衝動的に動いてしまう 10.人との関係が 11.コミュニケーションが 12.なにか気になって
・不器用な子ども ・行動上の問題

第2部
・学校体制 ・学校を支援するシステム ・宇治市における取組

第3部
・精神科医から ・小児科医から ・作業療法士から ・臨床心理士から
・保護者から ・保護者の手記 ・Q&A