「見立て」の進め方
 
 
○「背のびしているよい子」
 当センターにおける不登校についての教育相談の中で、最も多い相談対象となる子どものタイプは、「背のびしているよい子」の不登校です。いわゆる不安など情緒的混乱のタイプで、「学校には行きたいけれど行けない」子どもです。
 「優等生の息切れタイプ」という言い方をされることもあり、大人の言うことを従順に聞く「よい子」であり、高性能のアンテナで親や教師の言うことを敏感にキャッチしている子どもですから、「蓄積ストレス」によって登校しにくい子どもであるともいえます。
 「ON」と「OFF」、勝ちと負け、出来たと出来ない、行けたと行けない・・・というような「二分法の世界」に生きていることが多いので、期待されている自分の役割ができなかったときの挫折感も大きいわけです。
 「背のびしているよい子」に対しては、まずは周りの親や教師など、大人達がその子どもへの要求水準を下げることが必要でしょう。その子どもは多大な蓄積ストレスのなかにいるわけですから、心理的緊張の弛緩を目指しながら校内で関わりをもっていくことが必要です。
 子どもとの関わりにおいては、「やっていること自体、そのものが楽しいというような体験」を一緒に見つけていくことで子どもの心理的な緊張をほぐすことがよくあります。両極の「ON」と「OFF」の世界に生きている子どもには、「ほどほどの・・・」とか、「適度な・・・」という体験の積み重ねが大事になります。(詳しくは「センターだより76号」参照)
 
 
○「心を通わせにくい子」
 「心を通わせにくい子」の不登校についても多く相談があります。
 自分の気持ちが表現しにくいタイプの子どもです。喜怒哀楽の感情を人に伝えることが苦手であったり、感情の変化を外にはあまり見せない子どもです。
 学校では作文を書くのにひどく時間がかかったり、「想像の絵」等が描きにくかったり、また自分の気持ちを言葉で表現することが苦手なので、教師が日常的に接している中で、その「問題性」には比較的気が付きやすい子どもであると言えます。
 幼少の頃から、その子どもにとって、忙しすぎる母親であったり、厳しすぎる父親であったりなど、主たる養育者に対して心を使いすぎてしまっていたり、感情を表に出さないことによって自分の心の安定を保ち続けてきたケースによくみられます。
 また、もともと性格傾向としておとなしかったり、他者への心遣いに敏感であるなど、自分の気持ちを表すことが苦手な子どもであるがゆえに、その子どもに対して、周りの大人達がその子どもの気持ちを推測して、先取りして子どもの要求や欲求を満たしてきてしまっているケースにもよく出会います。
 こういう場合、「感情のキャッチボール」が他者としにくいので、小学校、中学校に進学したときや、進級によるクラス替え等で、環境が大きく変わり、友達や教師、クラブ等で新たな人間関係を築かなければならなくなったときに、「不登校」として心理的問題が顕現化することも多くあります。
 このような子どもとの関わりにおいては、子どもが話すことについて、簡単に「ああ、そうか、わかった、わかった」などとせずに、その子どものことは基本的には「わからない」ものだというスタンスを教師はとり続けることが大事です。その子どもが話すことを「それでも、なんかよくわからないなぁ」という構えで『聴く』のです。その子が今、どんなふうに感じ、どんなふうにやろうとしているのか感じ取ろうとしながら「聴く」と、「わからない」というその教師に、もっと自分のことをわかってもらおうとして、子どもはさらに内的なものを言語化してくれるはずです。
 「心」とは実に不自由なもので、そう簡単に自分でコントロールできるものではありません。まずは「心」などというものは「わからない」ものなのですから、子どもがどんなふうに感じ、どんなふうにやろうとしているのか感じ取ろうとしながら、教師は『聴く』ということが大事です。
 
 
○「自分で決められない子」「決めにくい子」
 他者に依存的で、自分で自分の行動を決められない、決めにくい子どもです。
 例えば教室の休み時間に友達の輪の中に入ってはいるけれど、友達にとってその子どもがいればいたでよいし、いなくてもよい・・・というようなタイプの子どもです。
 特に体育祭や文化祭などの取組が始まり、「学校」の指導性の高まる時期で、自分で決めたり、自分で判断して動かなければならない場面が多いときなど、「決められなさ」が顕在化して、子どもは多大なストレスを抱え込んで休まないといられなくなる。あるいは、その取組の間は勢いもあって登校していたが、行事が終わるとホッと弛んで不登校に陥るというようなケースによく出会います。9月は不登校の開始時期として最も多い月であると言われています(国立教育政策研究所生徒指導研究センター『中1不登校生徒調査』平成15年8月)
 このような「決められない」「決めにくい」子どもとの関わりにおいては、教師は子どもの「迷いについていく」ことも必要です。
 「決められない」子どもに二分法的にAかBかを選択させるのでなく、その子どもが「Aにしようか、Bにしようか、いやそのどちらでもないかな・・・」というような「迷い」を子ども自身が自分で感じられるようにすることも大事です。子どもが決めかねている「迷い」に、しばらくついていくのです。そうすると子どもはだんだんと自分で決め、自分で判断していくように必ずなっていきます。
 もちろん、際限なく「待つ」ということはできませんから、あらかじめ「○分まで一緒に考えてみようか」というように見通しを持っておくほうが互いに楽なことの方が多いです。
 自分が自分の「決められなさ」について感じ取れないと、「自分で決める」ということはできるようにはなりません。そのためには、「じゃ、Aにしなさい」とか「さっさと決めなさい」というように、先に「答え」を出したり、「答え」を急がせてしまうと、子どもは「迷い」が感じられなくなります。「決められなさ」に対する「お説教」や「押しつけ」は、ほとんど効果がないでしょうし、子どもの成長にはマイナスに働くこともあります。
 
 
○「虐待が疑われる子ども」「反抗する子ども」
 他にも虐待が疑われる子ども(詳しくは「センターだより72号」)、反抗する子ども(詳しくは「センターだより73号」)など、相談に来られる不登校のタイプは実にさまざまですが、今、不登校に陥っている子どもの理解とその子どもへの対応のノウハウは、不登校の未然防止に必ず役に立ちます。
 
 不登校になる前、その子どもは学校に行っていたのですから、それならば、その子が学校に行っている間に、上記のような「見立て」が行われ、その子どもへの関わりが適切にもたれていたとしたら、心理的な問題が全て解決することはないにしても、「学校を長期に休まなくて済む」ということはあったかもしれません。
 「教育」の専門家であり、常に子どもと接している教師が、子どもを見る確かな「眼」を養うことが不登校の未然防止のためには最も重要なのです。
 
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