▼教育相談シリーズ

虐待された子ども
 

  「児童虐待」が大きな社会問題となっています。虐待された子どもが負うこころの傷ははかりしれ
 ず、最悪の場合、命さえ落とすこととなってしまいます。家庭で行われる子どもへの虐待は発見され
 にくく、日々子どもと接する教職員の果たす役割は多大です。
 
「虐待」ってどういうこと?
 虐待とは、親またはそれに代わる保護者により、子どもに加えられた次のような四つの行為です。
@身体的虐待−外傷の残るような暴行や生命に危機を与えかねないような暴行 
Aネグレクト(情緒的虐待)−保護の怠慢や拒否、極端な栄養不良や不潔、あるいは子どもに情緒的なかかわりをもたない無視や拒否
B性的虐待−親による近親姦や性的暴行
C心理的虐待−子どもに不安や脅え、無感動や無反応、強い攻撃性などの精神状態を生じさせる行為。
 これらの行為が、非偶発的で長期にわたり、継続的でかつ反復性があり、通常の体罰の程度を超えている場合です。
 
被虐待児の心理的特徴
 被虐待児の一般的な心理的問題として、人への基本的信頼感、安心感が欠如すること、克服できない心的外傷体験をもっていること、そして、それを癒す場が家庭にないことなどが挙げられます。他者への基本的信頼感が損なわれ、また、虐待されるのは自分が悪いからと受け止め、親に嫌われないよう過剰な適応がみられることもあります。その反面、自分が親からされてきたことを再現するかのような行動がみられることもあります。
 また、自分自身の存在が否定されているように感じ、さらなる自己評価の低下を招くとともに、親に対する不安と恐怖を抱いて生活することによって、常に高い緊張を強いられているのも被虐待児の心理的特徴です。
 
教師にできる被虐待児への援助は?
1 虐待の発見
 早期発見・早期対応が必要であり、親の虐待の重度化、深刻化を予防することは、教師にできる最大の援助です。
 児童福祉法25条では「保護者のない児童又は保護者に監護させることが不適当であると認める児童を発見した者は、これを福祉事務所又は児童相談所に通告しなければならない」と規定しており、虐待を発見した者の通告義務が定められています。
 教師には虐待を発見する鋭敏な感覚をもつことが極めて重要で、早期発見のポイントとして次のようなものがあります。
 
 発見のポイント
 @表情・態度
 極端に萎縮した感じがする、常に親の存在を気にして落ち着かない、視線が定まらない、あるいは極めて無表情で無気力な感じがするなどの様子には注意が必要です。
 A外傷
 外傷は目に付きやすい場所よりも衣服で見えないところなど、発見しにくい場所にあることの方が多くあります。不自然な外傷がある場合にも虐待を疑う必要があります。
 B生活の状況
 髪の毛が汚れている、衣服が不潔である、毎日同じ物を着ている、理由の曖昧な欠席が多いなどが虐待の兆侯である場合もあります。このような場合には注意深く子どもの生活状況を観察する必要があります。
 
2 被虐待児への援助
 @子どもに「味方である」ことを伝えること
 「私はいつでもあなたの味方だ」という心情を言葉にして、ことあるごとに降り注ぐシャワーのように伝え続けていると子どもは確実にこちらに目を向けるようになります。ただし積極的なかかわりも、途中でこちらの都合で断念するようなことがあれば、かえって見捨てられ感を膨らませ迫害的不安を強くする結果を招くことになります。
 A子どもの肯定的評価を親に伝えること
 親との面談で、子どものほんの小さな努力や成長など子どもの肯定的なところについての話題を、大袈裟にならない程度にこちらが意識して取り上げることも大事です。
 親自身の努力や苦労もねぎらいながら、緩やかで柔らかな教師との関係が築けるように努めることが重要でしょう。
 Bホッとするような地域での体験をもつこと
 親が地域で孤立している事例も多くあります。学校は地域で子どもを育てる核として重要な役割を担っており、教育相談所や児童相談所、医療機関等の専門家とのつながりだけでなく、学年PTA、地域の子ども会、自治会、民生児童委員、またボランティアの人達など非専門家をまじえて、いかにしてその子どもや家族に対する温かい緩やかなコミュニティ・サポートを築くかということが大きな課題でしょう。親ならば誰もが抱える子育ての不安をどこかで互いに共有し合って、互いに肩を張らずに出し合えるようなものがいいと思います。

※本号は平成15年3月発行の内容です。平成16年10月「児童虐待の防止等に関する法律の一部を改正する法律」が施行されました。詳しくは「みえますか?子どものサイン−虐待された子」参照