「関わり」の進め方
○家庭訪問の「仕方」
登校しにくい子どもへの初期の関わりにおいては、家庭訪問の「仕方」がとても重要です。
登校できない子どもへの家庭訪問で、最も大事なことは、まず校内チームで分担をして「子どもの『こころ』に直接会いに行く」担当者(担任)をつくる、そしてその担当者を校内でサポートするということです。
学校に行けないという辛さは、副次的にも「みんなから遅れてしまう」という孤独感や疎外感を強め、不安や焦りをつのらせます。登校できない辛さはなかなか口に出すことはできないので、子どもにとって計り知れないほど大きな不安や心の緊張となって自分を脅かすものとなります。
登校できなくて、苦しくて、やせ細って怯えているその「こころ」に会いに来てくれる教師のメッセージは、その時にはすぐに届かなくても、必ず子どもの心に響いているはずです。
迷ったり悩んだりしている子どもの辛さ、苦しさに添いながら、温かいメッセージを届けてくれ、いつもいつも自分のために会いに来てくれる教師に、必ず「こころ」を動かしてくれるものです。
直接会いに行っても子どもがそれを断ったり嫌がったりすることもあります。子どもと面と向かって真剣に話すなどということはまずできませんから、学習プリントなどの道具とか、その子の好きな遊びなどを媒介としてよいわけです。
むしろ断ったり嫌がったりする気持ちが表現できたことの方が、その子にとって大きな意味をもつこともありますから、拒絶したり嫌悪感をもっている、その「こころ」に教師は関わりをもとうとすることが大事です。(詳しくは「センターだより77号」参照)
○親と会い続ける
子どもが登校しにくくなると、校内チームで「親と会い続ける」ことが大事です・
「○○のようにしてあげてください」「もっと△△というふうにしていきましょう」と親に学校の方針を伝えたり、アドバイスしながら一緒にやっていけるうちは、それが子どもの成長に役立ち、学校復帰に向けて効果的に働いているのかもしれません。けれども、いつまでもアドバイスのとおりに親の養育態度や家庭生活の在り方が変化し続けることはありません。もし親ができそうにないアドバイスを一方的に続けたとすると、多くの場合、親は「先生はちっともわかってくれていない」と不満を感じるようになります。そうなると互いに不信感が高まり、親にも教師にも家庭訪問の場がストレスを生む要因となってしまいます。
親に対する非難や不満などの感情が自分の中に起こってきたり、何かアドバイスがしたくなるとすれば、それはおそらく子どもの側に立って親の話を聞いているか、自分の教育観や人生観と照らして親の話を聞いているからでしょう。親と会うときには、親の側から「家庭訪問」を眺めてみることが大事です。親は自分の言葉をどのように受け止めたのだろうか、この面談が親自身のためになったのだろうか・・・と、親の側から眺めるのです。
たいてい、親がどのように感じていて、これからどのようにしたいと思っているかなどということは、こちらにはわからないので、だからこそ親の言葉を『聴く』ということが必要になるのです。
親に会いに行くときに、最も大事なことは「親、その人自身と会う」ということです。子どもとの関わりに悩みをもっている「親のこころ」に会いにいくということが必要です。その悩みはすぐには口にしないことかもしれないし、できないのかもしれませんが、何度か足を運んで親の語りにじっくりと耳を傾けていると、親自身のことがじわじわと伝わってくるものです。
子どもが登校したくても登校できないとなると、それは親の養育に間違いや足りなさがあったのだろうと周囲の人から見られ、親自身もとても辛く苦しいものです。そのため、時には登校できない原因を教師のせいだと責めたてたり、友達のせいにしたりというように他者に向けられることも起こってきます。
確かに周りの関わりに明らかな非があるなど、時には原因が他者にあることもありますが、多くの場合、そのようにして責任を転嫁しないと親自身が心の安定を得られないことが多いからです。
仮に子どもへの関わり方が多少ずれていたり間違っていたとしても、不満や辛さ、苦しさでいっぱいの「親のこころ」に添い続けていくと、親としてその時々に子どもに対してできることを一生懸命にやってこられたんだな・・・ということが、こちらにだんだんと伝わってくるものです。親自身の小さい頃のことや、自分の両親との関わりなどが親の口から内省的に語られ、愚痴もこぼせるようになると、これまでこういうふうに子育てしないではいられなかったんだろうな・・・と親の子育ての在り方にも納得ができるようになります。こちらが納得できるほど親自身のことが伝わってくるようになると、たいていの親は変化してきます。それは親が自分の不安や悩みに対して楽に向き合えるようになり、子育てをやり直してみようとする元気と自信を回復していくからです。
そうなると子どもも確実に変化してくるものです。
もちろん、担任一人で親の面談まで全て抱え込むということは、時間的にも心理的にも困難ですから、学校教育相談の体制を整えて、チームで「親のこころと会い続ける」ということが大切です。(詳しくは「センターだより78号」参照)
○不平、不満を言い続ける親
しかしながら、それでも果てしなく不平、不満を言い続ける親もあります。これは、おそらく人は皆、誰でも「自分が正しい」と思っているからなのでしょう。例えば、「帰宅の遅い夫」と「口うるさい妻」がいたとして、「妻が口うるさいから俺は帰宅が遅いんだ」と言い張る夫と、「夫の帰りが遅いから口うるさく言わないと仕方ない」と言い張る妻と、どちらが「正しい」かという「答え」はなかなかみつかりません。人は皆、「自分が正しい」と思っているからこそ、腹が立ち、不平・不満の一つも言いたくなるのでしょう。仮にそのとき「間違ったこと」をしている自分に気が付いていても、「間違っていても自分は正しい」と思い込んでいることもあるようです。
果てしなく不平・不満を言いつづける親の場合、心の専門家による継続したカウンセリングが有効な場合があります。カウンセラーは、相談者自身の姿を映し出す、言わば鏡のような役割をします。力のあるカウンセラーは、不平、不満を言いつづける親の「ありのままの姿」を丁寧に映し出していきますから、自分の姿をじっくりと心ゆくまで眺めると、自分のことが見えてくるものです。おそらくどんな不満の強い親であっても、「ああ、あの時は『自分が正しい』と思って一生懸命にやっていたんだ」というふうに気付いて来られます。そうなると、親自身の人と向き合う構えが変わってくるものです。そして、関係が変化してくる、相手も変化してくる・・・ということが起こるのです。