体育科における評価のポイント

―― 運動に親しみ 体力の向上を図る 指導と評価の工夫 ――

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実践編
1    授業改善に向けて
2-1  単元指導計画と評価計画
2-2  学習計画の組み立て
2-3  各段階の指導と評価計画
2-4  本時の展開(第2段階)
2-5  単元終了後の【評価記入例】
3    実践を通して明らかになったこと





1 授業の改善に向けて(評価に関して)


(1) ねらいを明確に

  学習活動における具体の評価規準は、「おおむね満足できる」状況(B)を示しており、目標に対してどの程度実現していれば、(A)や(C)とするのかを決める必要があります。



(2) 留意すること

ア 評価する観点を1時間で1観点程度に絞り込んでおきます。そのため授業の流れの計画づくりが大切です。
イ 評価方法を工夫して、他の観点についても評価できれば盛り込むことも可能です。また、評価規準と合わせてどのような方法で評価するのかという点を、事前に決めておくことが大切です。
ウ 児童に意欲的に授業に取り組ませるには、評価規準を事前に知らせたり、目標をもたせるための評価場面設定や観点の絞り込み、Cと評価した児童への指導を考えてお きます。
エ 定期的な規準の修正・更新、評価を位置付けた研究授業の実施及び事前・事後検討会の設定、授業の反省、学習カードやワークシートなど評価方法の工夫が重要です。
オ 観点別評価は   
 (ア)「運動や健康・安全への関心・意欲・態度」児童の取組状況を児童の自己評価や相互評価、教師の観察記録、学習カードや感想などを通してまとめます。   
 (イ)「運動や健康・安全についての思考・判断」考えさせたり工夫できる箇所を明確にするよう学習カードやワークシート、練習試合での様子、自己評価などを通して児童がそれぞれの方法で思考したり判断したりする状況をまとめます。   
 (ウ)「運動の技能」実技テストや練習、試合場面での観察などを通して、児童に運動の楽しさや喜びを味わうために必要な動きや技能が備わっているかをまとめます。   
 (エ)「健康・安全についての知識・理解」学習カードやワークシート、テストなどを通して、児童が課題の解決に役立つ知識を身に付け理解しているかをまとめます。



                      

2 【 指導計画と評価計画の作成 】


2-1 単元指導計画と評価計画


(1) 単元


体つくり運動(持久走) −6年生−


(2) 単元設定の理由

  心肺機能の発育発達及び動きを持続する能力を高めることをねらいとし、体つくり運動の体力 を高める運動にある「5〜6分間程度の全身運動・無理のない速さでの持久走」として設定した。 学校行事等での持久走の取組、小学校体育連盟等の駅伝競走大会に向けた取組の一環としても役立ち、生涯スポーツとして親しまれる一助としたい。児童の体力の発達状況から、陸上運動と組み合わせて実施するよう計画した。


(3) 運動の特性

  一般的に持久走は、自己に適した速さで長い時間(距離)を走り続け、走り方やペース配分に伴う体の状態に気付き、それに応じた走り方やペースを体得していく過程、及び走り終わったと きの達成感や爽快感を味わうことが楽しさにつながる運動である。ともすれば競争になり自分の能力以上に無理をしてしまい、そのことから苦しくて嫌な種目と とらえてしまっている児童もいる。体力の向上と生涯体育につなげるよう、競争ではなく自己に合ったペースを基に行い、めあてを達成させていくことで意欲的な取組になると考えられる。


(4) 学習のねらいと筋道

ア 学習のねらい
(ア) 無理のない速さで、5分〜6分間程度のペース持久走を楽しくできるようにさせる。
(イ) 自己に合った速さを理解し、走るペースを速くしたり、距離を伸ばせるようにさせる。
イ 学習の道筋
(ア)「ねらい1」…無理のない速さで、ペース持久走を楽しませる。   
(イ)「ねらい2」…自己に合ったペース配分を工夫し、トータルタイムの短縮に挑戦させる。


(5) 単元目標

◎ 運動を楽しみながら自己の設定ペースで長い時間(距離)を走ろうとする。
    (運動への関心・意欲・態度)
◎ 自己設定の目標タイムと実際のタイムを分析し、自己に合ったペースづくりを工夫している。
    (運動についての思考・判断)
◎ 持久走の特性を理解し、自己の体力に応じた走り方を身に付けることができる。
    (運動の技能)


(6) 単元指導計画
   (3時間扱い=15分×9構成)

第1段階 持久走の学習のねらいや記録の取り方について学び、600mを測定する。
第2段階 600m走の記録から自己の1500m予測タイムを設定する。走り終えた後、予測タイムと実際のタイムを比較し、また、1周ごとのペース配分も分析する。
第3段階 前時の分析から自己に合ったペースや予測タイムを設定し、設定タイムを守るように走る。走法や呼吸法を含めペース配分を工夫し、トータルタイムの短縮に挑戦さ せる。
第4段階 自己の体力の高まりを確認し、設定したペースに合わせて楽しみながら走る。自己の結果を振り返るとともに、ペアや全体で相互評価をする。


(7) 評価の視点

ア 行動を観察して
(ア) 一定の速さで走ろうとしているかを観察し、評価します。大きく変動する児童には個別に指導を行います。
(イ) 走り終えたときの疲労度等を観察し、自己の体力に応じたペースが見つけられているかを 評価します。著しく合っていないと判断できる児童には個別に指導します。
(ウ) ペアの児童が走っている間に、目標設定タイムを守らせるよう適切な指示や記録ができているかを評価します。
イ 自己評価(ワークシートから)
  時間を追ってペースが速くなったり、距離が伸びたり、意識的にペースに変化が付けられているかを読み取ります。
ウ 相互評価(ワークシートから)
  ペアの児童の活動に対して、適切な意見を記入しているかを読み取ります。


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2-2 【 学習計画の組み立て 】


(1) 学習の進め方


児童の発育体力状況と運動量から判断し、1単位時間45分を15分間単位の3分割構成として計画していきます。


(2) 時間配分のしかた


ア 7時間配当の中で体つくり運動と陸上運動を以下の表のように扱います。
イ 体つくり運動は、3時間配当分を(15分×9構成)として組み立てていますが、
   3・4・7時間目は2構成(15分×2構成)とします。
※留意点  単位時間の前半で持久走を行ってから陸上運動を行います。
陸上運動単元目標
◎ 陸上運動の楽しさや喜びを求めて進んで取り組んだり、勝敗に対して正しい態度が取れ、
   安全に留意し運動を楽しもうとする。  (運動への関心・意欲・態度)
◎ 自分の力に合った課題の解決を目指して、練習の仕方を工夫している。  
    (運動についての思考・判断)
◎ 競技種目の特性に応じた技能を身に付け、記録に挑戦することができる。     
    (運動の技能)


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2-3 各段階の指導と評価計画


段 階 指導過程と
指導内容
学 習 活 動 学習活動における具体の評価規準等
評価規準 ( 観 点 )
〈評価の方法〉
十分に満足できると
判断される状況
努力を要する状況への
手立て
第1段階
15分
@
(課題把握)
 学習のねらいと道筋を理解し、学習の進め方について見通しをもたせる。
 現在の自己の体力を知る。  
 体つくりの必要性を知る。  
 自己の体力に合った課題をもち、学習計画を立てる。
 持久走に関心をもち、進んで計画を立て運動しようとしている。
(関心・意欲・態度)
〈個人ペース表等ワークシート、体力テスト個人票〉
 今までの経験を踏まえ、自己の体力を理解し適切なペース設定により運動することができる。  平均的なペースや昨年までの記録を基に、学習の見通しがもてるよう指導する。
第2段階
15分
A
(本時)
30分

B・C
(課題追究)
「ねらい1」  
 無理のない速さで、ペース持久走を楽しませる。
 繰り返し体力を高める運動に取り組み、自己に合ったペースを見つける。  運動を楽しみながら自己の設定ペースで長い時間(距離)を走ろうとする。
(関心・意欲・態度)
〈行動観察・ワークシート〉
 教師の指導や友達のペースを参考に、質の高いペース配分を意識的に設定できる。  走り始め・中間・ラストスパートの区別を意識してペース配分をするよう指導する。
第3段階
30分
D・E
15分
F
(発展・深化)
「ねらい2」
 自己に合ったペース配分を工夫し、トータルタイムの短縮に挑戦させる。
 互いに協力して、自己の工夫したペース設定が守れるように走る。  自己の体力に合ったペースづくりを工夫している。
(思考・判断)
〈ワークシート〉
 
 自己の体力に応じてペース配分し、最後まで走ることができる。
(運動の技能)
〈行動観察〉
 自己の体力に挑戦するペース設定が計画でき、ペア相手に適切な指示が出せる。

 自己の体力から高い目標をもってペース配分を組み立て、走りきることができる。
 体力の似通った友達のペース設定を参考にさせて、一定の無理のない設定で走るよう指導する。
 VTRで自己の走る状況を確認させ、フォームやペース設定の乱れを指導する。
第4段階
30分
G・H
 学習を振り返り、まとめさせる。  自己の体力の高まりに合わせたペースで楽しく走る。
 学習したことを発表しあう。
 自己の体力に挑戦する楽しさが分かり、ペース配分を設定して走ろうとする。
(思考・判断)
(運動の技能)
〈行動観察・ワークシート〉
 自己の高まった体力の変容を理解したペース設定ができる。
 めあてを達成した理由を分析し的確に発表することができる。
 ワークシートや友達のアドバイスを振り返るよう指導する。



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2-4 本時の展開(第2段階)


(1)  本時の目標


運動を楽しみながら、自己の設定ペースで長い時間(距離)を走ろうとする。  (運動への関心・意欲・態度)



(2) 本時の展開

過程 指導内容 指導形態 主な学習活動 指導上の留意点 教材・教具等 評価



・準備体操をさせる。 ・本時のめあてを説明する。 一斉 ・準備体操をする。
・本時のめあてを聞 く。
・児童の様子を確認する。
・ワークシートをもたせ、ていねいに分かりやすく説明する。
ワークシート
筆記用具
コーナーコーン
第1段階のタイムから自分の予想設定タイムを考え、走ったタイムの結果を分析しよう







・ペースを確認しながら走らせる。


・本時の目標ペースを設定させる。




・ペースランニングの記録測定をさせる。








・陸上運動の練習をさせる。
個人



個人
ペア




個人
ペア








個人
・グランド2周をペースを確認しながら走る。


・自己の体力に応じた目標ペース設定を考え用紙に記入する。



・ペアで相談し、走者と記録者に分かれ、交代する。
・ワークシートの項目に沿って書き込みをする。






・選択した種目の練習をする。
・体調を確認するよう指導する。
・10周走ることを意識して行わせる。

・適切なタイム設定になっているかペアで確認させる。
・指導が必要な児童の記入を点検し、ねらいを理解しているか確認する。

・記録者に大きな声でいろいろな指示を多く出すよう、繰り返し指導する。
・ペア相手へのアドバイス等もていねいに記入するよう指導する。
・自分の結果が分析できていない児童には助言し、活動を振り返らせる。

・種目の特性に応じた技能を高めるよう指導する。
・持久走後なので体調に変化がないか注意して全体を見る。
ストップウォッチ
放送器具
カセットテープ
メガホン
種目用具
・運動を楽しみながら自己の設定ペースで長い時間(距離)を走ろうとする。
(関心・意欲・態度)
〈行動観察・ ワークシート〉


・本時の振り返りをさせる。
・片付けの指示をする。
・次時の予告をする。
一斉 ・感想や気付いたことを発表する。
・整理体操をする。
・用具の片付けを協力して行う。
・気付いたことを発表させ、整理して全体のものになるよう指導する。
  ※「児童の走り終える時間を予測して」カセットテープに1秒ごとのタイムを吹き込んでおきます。
  ※ストップウォッチは、ペアの数だけ用意します。(できれば1人に1個が望ましい)  
  ※雨天時には、体育館等での実施も想定して作成します。




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2-5 単元終了後の【 評価記入例 】


《参考資料として》
4月実施の体力テスト結果
シャトルランテスト 総合結果
94回  10点

児童名( ○ ○ ○ ○ )
運動への関心・意欲・態度 運動についての思考・判断 運動の技能
児童の状況  運動能力は高くペースメーカー、ムードメーカーとしての役割も期待できる。  
 一回目に設定したペースは、安易に楽しみながら走れるペース設定をし、昨年度の自分を乗り越えようという意欲は感じられなかった。
 また、相互評価を受けた後のペース設定に意欲的な改善がみられず、友達からのアドバイスに応じているとはいえない。評価はCとした。  
後半の取組では、5年時や体力テストの結果を踏まえ、体力を高められるペース設定となるよう指導・助言した。
 結果、4回目では自己の力に見合うがんばった走りをすることができた。評価はBとした。
第2段階まで
 「ワークシート」の自己評価欄から、ペース配分が遅かったと反省していることが記述から確認できた。また、記録の記述から、9週目までは楽に走れるペース設定にし、最終周のみ速いペースでスパートをかけるという設定をしていた。この段階では評価はCとした。
第3段階  
 教師の指導や相互評価から、5年時の記録や、体力テストの結果を振り返り、ペース設定の工夫改善に努めた。「ワークシート」では、4回目のランニングの自己評価得点を100点、自由記述では「自分らしい走りができた」と振り返っている。今回のペース設定の負荷は、本人の体力から判断して少し低いかもしれないが評価はAとした。
 「ワークシートのランニングフォーム研究」では、自分の走りを的確に分析ができていた。さらに、腕の振りを一定にするよう意識して走ったことを、全体のまとめで発表することができた。また、走っている自分のビデオを見て、次時からの走りに生かすことができた。評価はAとした。  
 ペース配分グラフから、設定したタイムを守って走った結果が読みとれる。  4回目の記録用紙の記述から、前半は安定したペースで走り、後半は周回ごとにペースを上げていくペース配分で、自己のベストの走りができたことを確認できていた。評価はAとした。
評価
評定 2 (3段階評定)


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3 実践を通して明らかになったこと


(1) 授業改善のねらい


成  果
☆ 児童が一定の距離を走り、教師がタイム測定を行うだけの授業から、ワークシートを効果的に活用させ、
 めあてをもたせることで『自己のペースを計画・工夫する』・  『ラップタイムをグラフ化し自己のペースを確
 認後、また計画する』・『ペアの走りに 注目しアドバイスする』等、児童の関心・意欲や思考・判断を高めら
 れました。
☆ フォームを意識させ、呼吸の仕方を工夫させることで、長い距離を走ることに自信をもった児童もいます。
☆ 児童にワークシートの記入内容について、視点や具体例を示してより分かりやすく指導することにより、
 内容豊かなものにすることができました。相互評価欄のペアからの記述で、自己の結果も踏まえたアドバ
 イスが書けるようになった児童もいました。
☆ 「先生からのアドバイス」の内容に、『児童の資質・能力を伸ばそう』・『ねらいに沿う活動をさせよう』とす
 る内容を記述し、児童の感心・意欲や思考を高められました。


課  題
★ 児童個々の体力状況差があり、時間内にワークシートの記入ができず、授業後の休み 時間等に記入す
 る場合もありました。また、計画づくりを家庭学習の課題とした場合も ありました。児童の状況から指導計
 画を細かく立てておく必要があります。
★ 第2段階までの学習活動で、各周の目標設定ラップタイムを守ることを優先し、計測 点付近で止まるなど
 して調節する児童がいたので、全ての児童に学習内容を分かりやす く具体的に説明することの難しさを再
 確認しました。





(2) 児童の変容に向けて


成  果
☆ 5年生時と比較して、段階の進行とともに自己に合った安定したペースで走れるよう になり、また、計画
 的に後半のペースをあげてトータルタイムの短縮に挑戦できた児童がいました。
☆ 第1、2段階では、ペアの記録を記入しながら「ちょっと速い」・「遅れている」の声掛けから、第3、4段階
 では「少し速くして」・「遅れているからがんばって」・「この1周が終わったら次から少しずつペ−スをあげ
 る」と、必要に応じたアドバイスの声掛けができるようになっていきました。
☆ 口数が少なく日頃はおとなしく見られていた児童が、黙々と走る姿に他の児童が声援を送る光景が見ら
 れ、学級集団の高まりに役立ちました。
☆ 間近に迫った地区小学生駅伝大会に向けての練習を、業間や放課後に積極的に取り組む姿が見られる
 ようになりました。


課  題
★ 学習前のアンケートで、「運動は好きだが、持久走は好きではない」と全員が答え、学習を終えての感想
 でも「好きになった」という児童はありませんでした。短期間の取組で求めるには無理があり、6箇年を見通
 した計画が必要と考えます。
★ 学習前のアンケートで、「運動は好きだが、持久走は好きではない」と全員が答え、学習を終えての感想
 でも「好きになった」という児童はありませんでした。短期間の取 組で求めるには無理があり、6箇年を見
 通した計画が必要と考えます。     
★ 児童の中には、「運動に親しむ資質や能力を育てる」ことをねらいとした授業内容と、目前に結果が求め
 られる駅伝大会に向けた練習を同時期に実施したことで、ペースランニングのねらいとするタイム設定づく
 りに苦労する児童も見られました。


   ※ 天候によっては体育館でも実施できるよう、他学年と調整が必要でした。   







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