学校ができること
 学校全体で支える校内体制での関わり、子どもへの継続的な関わり、親への緩やかな関わり、そして地域での関わりというふうに、学校ができることは大きく次の4点に集約されるように思います。

具体的には、例えば少しでも学校に来ている場合や相談室登校できている場合など、ケースによって様々な関わりが可能になるでしょうが、大筋において被虐待児への援助、支援は次の4点について校内で協議され検討されることが必要です(Fig.7)。
       
Fig.7  「学校ができること」
                    
@担任一人が抱えこまないこと  
         
  虐待をした親には必ず強い罪悪感があるので、虐待の事実を責めたり指摘するような関わりは厳に慎まなければなりません。

 親がそういうふうにしか子育てをすることができなかった状況や背景を眺めながら、家庭での子どもの様子などについて、ゆったりとした雰囲気でそれを否定せず聴くことが大切です。

 親自身の生育歴、親の仕事や価値観などの話題について親が語るようになれれば、ほとんどの親は安定してきます。
 
 多くの教師が関わるということは責任の分散ということでなく、より有効な援助の仕方を探るためであり、さしのべられる援助の手や向けられる笑顔は多いほうが確実によいわけで、外部の専門機関との連携を含めて多くの教師が関わることがまず必要です。


A子どもに「味方である」ことを伝えること

 教師のそばを離れない、帰宅時間になっても校内にいる場合などには、離したり帰校させたりする前に、「私はいつでもあなたの味方だ」という心情を言葉にして、ことあるごとに降り注ぐシャワーのように伝え続けていると子どもは確実にこちらに目を向けるようになります。

 子どもは親から裏切られた体験をこころの底に強く潜めているので、教師の願いや期待を簡単に裏切ることもあるだろうし、とりわけこころに傷をもつ子は他人のこころの動きに敏感です。

 「あなたは私の宝物、大好き」というメッセージを送り続け、積極的に関わりをもつことも大切ですが、少なくとも1年以上続けられる関わりを確実にもち続けることが必要です。

 もし途中でその関わりをこちらの都合で断念するようなことがあれば、子どもはさらに見捨てられた感じを膨らませ迫害的不安を強くする結果になります。


B子どもの肯定的評価を親に伝えること

 親は子どもの行動をマイナスにとらえがちです。そのようなことが続く場合には、親との面談で、子どものほんの小さな努力やわずかな進歩など、子どものプラスな部分についての話題を、もちろん大袈裟にならない程度にこちらが意識して取り上げることも大事です。

 子どもが学校にほとんど足が向かないときは、家庭訪問によって子どもと関わることになりますが、その際にも雑談や遊びの中でゆったりとして子どものプラスの部分を眺めながら関わっていると、それまで見えなかった子どもの新しい一面が見えてきます。

 親自身の努力や苦労もねぎらいながら、緩やかで柔らかな教師との関係が築けるように努めることが重要でしょう。

Cホッとするような地域での体験をもつこと

 親が地域で孤立している事例も多くあります。

 学校は「地域で子どもを育てる」核として重要な役割を担っており、教育相談所や児童相談所、医療機関等の専門家とのつながりだけでなく、学年PTA、地域の子ども会、自治会、民生児童委員、またボランティアの人達など非専門家をまじえて、いかにしてその子どもや家族に対する温かい緩やかなコミュニティ・サポートを築くかということが大きな課題です。

 これは、親同士がホッとするような温かい地域行事や懇談会であってもいいし、専門家による講演会や研修会でもいいと思います。

 親ならば誰もが抱える子育ての不安をどこかで互いに共有し合って、互いに肩を張らずに出し合えるようなものがいいと考えています。
 
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