ウ 反抗と道徳的判断力
 子どもが大人への荒々しい反抗を繰り返す事例は、周りの大人たちが幼少の頃からいわゆる「威厳のある態度」で接することがほとんどなかった子どもに多く見られます。

 威厳のある態度とは、信念があり、それを本気で貫く強い意志があり、子どもに迎合しない「父性」です。

 威厳のある態度は、その態度がその人の確かな信念や真実に基づいているというところが肝心なのであって、それらに基づかず、ただ力に頼って権威だけをふりかざすだけの権威主義的な態度であるとか、封建的な上下関係に基づく権威主義的な態度とは全く異なるものです。


 
 また、子どもが親を本当に必要としているところで親が子どもの前に登場せず、しつけや育児をすべて祖父母任せにしてきたような事例も多く見られます。

 これは「父性」だけでなく、産み育てはぐくみ、親密かつ継続的で母子を満足感、幸福感で満たす「母性」も家庭内に欠落していたのかもしれません。

 親は休日にはどこかへ連れて行ってくれたり、ほしい物を買ってくれたりするけど、子どもが親の支えを本当に必要としているようなとき、忙しさにかまけて「自分のことは自分でしなさい」とでもいうような親の態度によって、反抗する子どもたちが「見捨てられた感じ」を強くもっていることは珍しくありません。


 
 もちろん、子育てにおいて、これがいいとか、これがだめだとかいう絶対的価値が存在するわけではないでしょうが、ますます価値観の相対化が進み、多様な生き方が模索されていくであろうこれからの時代にあって、家庭、学校において、いわゆる不易としての道徳的判断力を幼少期からはぐくみ育てることが、子どもたちの「健全な反抗」を育てる上で重要なことであろうと考えられます。

 そのためには、子どもの発達の段階に見合った「父性」の登場が不可欠であると考えています。
 
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