被虐待児の心理的特徴
 被虐待児の一般的な心理的問題を列挙してみますと、人への基本的信頼感、安心感が欠如すること、乳幼児期の心理的発達課題を数多く引きずっていること、克服できない心的外傷体験をもっていること、そしてそれを癒す場が家庭にないことなどが挙げられます。

 特に被虐待児の乳児期の愛着行動の欠如や偏りは、その後の子どもの心理的発達を長きにわたって大きく歪め、健全な心理的発達に大きな影を落とすことが数多くの研究で明らかになっています。


 自分を庇護し愛してくれるはずの親から暴力を受けたり、無視されたりすることは、子どもにとって「死」を意味します。
 子どもは無力であり、一人で生きていくことなど到底できないからです。

 親の絶対的な愛情にはぐくまれ、「何があっても親は自分を見捨てない、必ず護ってくれる」という基本的信頼感こそが安心して新しい対人関係を結ぶ基盤となります。
 
 被虐待児は「自分を愛する人は自分を傷つける人だ」という学習をし、他者への基本的信頼感が損なわれていきます。
 そして虐待行為を「親にそうされるのは、自分が悪いからである」と受け止め、子どもなりに虐待されないように自衛しようとします。
 「親の期待や願いに応えるよい子になればいい」とマスクをかぶったようにニコニコして親に嫌われないよう過剰な適応がみられることもあります。
 その反面、癇癪を起こしたり、友達に対して暴力を振るったり、自分が親からされてきたことを再現するかのような行動がみられることもあります。(これは仲間から執拗ないじめを受けた体験をもつ子どもにも同様の傾向がみられますが、同じ防衛機制が働いていると考えられています。)


 こうなると「親の期待に添わない自分はダメだ」と自分自身の存在が否定されているように感じ、そうした体験が続くと自分の存在自体が無価値であるように感じてしまい、さらなる自尊感情の低下を招きます。

 「また親に叩かれるのではないか」「親は自分を見捨てるのではないか」という不安と恐怖を抱いて生活することによって、常に高い緊張を強いられているのも被虐待児の心理的特徴です。

 殴られないようにと親の顔色をうかがいオドオドし、失敗を恐れてビクビクしているために、遊びやユーモアを楽しんだり、リラックスしたりすることができません。
 
 どんなによい子になろうと努力しても認めてもらえることがなく、さらに同じように虐待が続くと「もう何をやっても無駄だ」と空しく感じて無気力になったり、生活全般で常に高い緊張を強いられているために、精神的に疲れ、集中力が低下してしまいます。
 
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