第U章 幼児児童生徒を凶悪な事件から守るための要点
この章において「要点」とは、学校が不審者侵入を想定して、学校安全計画を見直す上で見落としてはならないポイントをいいますが、初版と比較すると未然防止に重点を置いています。
なお、学校施設設備等のハード面における安全確保対策については特に詳しく触れていないので、この点については、各校種ごとの施設整備指針(文部科学省大臣官房文教施設部)等を参照してください。
改訂版において特に強調した点
○ 日常の学校生活における安全確保・安全管理
教職員の共通理解を図るとともに、校内の安全管理体制の整備(危機管理組織の見直し、学校独自の危機管理マニュアルの作成)、防犯教育・防犯訓練の実施
○ 保護者・地域社会との連携
開かれた学校づくりの推進を柱としながら、保護者や地域の関係機関・団体との連携強化
○ 日常の学校生活における安全確保対策
来訪者への対応、校内巡視体制、登下校時の安全確保等に関して、具体策を記述するとともに、校外学習時における安全確保についても記述
○ 不審者侵入時の危機管理体制の確立
役割分担の明確化を強調するとともに、 学校の特性・実態に応じたマニュアルの作成。また、
緊急時の対応における留意点を記述
|
1 日常の学校生活における安全確保・安全管理
(1)校内体制の確立
学校においては、何よりも子どもの安全確保が最優先されなければならない。
そこで、あらゆる緊急事態を想定し、早期に危険を発見し、校長を中心としてすばやく対応できる危機管理体制を日ごろから確立し機能させることが、子どもや保護者からの信頼を得るためにも極めて重要である。
ア 危機管理マニュアルの作成や校内体制の整備
安全に関する中心的な役割を果たす安全担当者を校務分掌上明確にし、緊急時に機能する組織の充実・整備を図り、自校の危機管理上の課題を明らかにした上で学校独自の危機管理マニュアルを作成する。
イ 教職員の共通理解と意識の高揚
作成した危機管理マニュアルについて職員会議や研修会等を開催し、情報交換や意見交換を行うことにより共通理解を深め、教職員一人一人の危機管理意識の高揚を図り、日常における安全対策や不審者侵入時の危機管理の対応等について熟知する。
(2)防犯教育・防犯訓練の実施
実施に当たっては、学校安全計画に適切に位置付け行う。
ア 防犯教育の目標
◇ 日常生活における被害の状況、原因及び防止方法について理解を深め、現在及び将来に直面する防犯上の課題に対して、的確な思考・判断に基づく適切な意思決定や行動選択ができるようにする。
◇ 日常生活の中に潜む様々な危険を予測し、危険を回避し安全な行動をとることができるようにする。
◇ 自他の生命を尊重し、安全で安心な社会づくりの重要性を認識して学校・家庭及び地域社会の安全活動に進んで参加し、貢献できるようにする。
イ 防犯教育の内容と指導時間
自他の生命の尊重の理念に基づき、緊急時に自分の身を守るための対処法等について、幼稚園では健康の領域で、小・中・高等学校では保健、特別活動等で子どもの発達段階に応じて具体的な指導を行う。
ウ 防犯訓練の実施
学校が企画立案し警察等の協力を得て、緊急事態を想定した訓練を定期的に実施する。
その際、子どもの安全を第一に考え、避難経路、避難場所、誘導方法・通報訓練等を確認しながら、発達段階に応じた訓練を行い、問題点があれば改善する。
2 保護者・地域社会との連携
(1)学校の安全を守るための連携
開かれた学校づくりを推進する中で、学校における日常の安全指導の取組を保護者や地域社会に発信し、連携と協力を得ることが基本である。
また、教職員自らが地域社会やPTAの行事等に参加するなど、日常的な連携の積み重ねにより、保護者や地域の人と情報交換ができるよう心がける。
ア 校種間連携
同一地域内の学校が連携を図り、地域全体の安全を確保するための情報交換を積極的に行う。
イ 関係機関・団体との連携強化
警察、PTA、青少年健全育成団体等との連携の強化を図り、子どもの登下校時、授業時、部活動時などに、それぞれの学校の実態に応じた安全対策について協力を求める。
ウ 地域の団体・個人の支援
学校開放事業で学校施設を使う地域の人、自治会、老人クラブ、子ども会指導者、退職教職員、学校支援ボランティアなど地域の諸団体や個人に対して、学校安全について具体的な協力を求める。
(2)地域社会との具体的な連携方策
地域社会に対して積極的な情報提供を行うとともに、関係機関・団体等との情報交換を進め、学校の危機管理について協力を依頼するなど連携を強化する。
ア 広報の活用
広報紙等の活用により、学校の安全管理に関する情報を家庭や地域社会に積極的に発信し、協力を呼びかける。
イ 学校安全のための地域のネットワークづくり
警察、保護者、地域の関係者等を含めた学校安全のための連絡会等を開催するなど、危機管理マニュアルへの意見の聴取、不審者情報の収集と共有等に努めるとともに、緊急時には協力要請をスムーズに行えるような体制づくりに努める。
ウ 警察や消防等との連携
学校周辺のパトロール、不審者情報の提供、防犯教室、防犯訓練等の指導など、安全管理についての支援・協力を依頼する。
エ 「こども110番のいえ」の周知
地域社会で子どもの安全を確保する体制を整えるためにも、「こども110番のいえ」など、子どもの緊急避難場所を地域の人にも知らせる。
3 日常の学校生活における安全確保対策
(1)来訪者への対応
学校内に不審者が侵入することのないよう、保護者や地域の人の理解を得ながら、来訪者の確認を徹底する。
ア 出入口・受付の明示
敷地や校舎への「関係者以外立入り禁止」の立札を明示したり、来訪者の出入口を限定するなど管理可能なものにするとともに、来訪者に出入口や受付場所が分かるよう案内表示を行う。
イ 来訪者名簿の設置
来訪者名簿を職員室(事務室)等の前に設置して、来訪者の出入りを確認する。
ウ 胸章(リボン、腕章、名札等)の着用
来訪者へ胸章の着用を依頼することにより、来訪者の存在を確認する。
また、保護者、学校支援ボランティア及び業者等の来訪者ごとに名札の色を変えるなどの工夫をしたり、あらかじめ保護者には、学校指定の名札を説明書とともに年度当初等に配布する方法も考える。
また、教職員も名札を着用し、来訪者からもわかるようにすることが大切である。
エ 来訪者へのあいさつ
教職員は、不審者を早期に発見するためにも、来訪者を見かけたら積極的にあいさつをしたり、声をかける。
(2)校内巡視体制の強化
不審者侵入の未然防止と、万一侵入した場合に早期発見・早期対応が可能となるよう、校内巡視体制の強化を図る。
ア 教職員による校舎内外の巡視
教職員による校内及び学校周辺の巡視を徹底し、特に、校長室や職員室(事務室)から死角となる区域を定期的に巡視する。
その際、普段と異なるところがないかなどに注意し、複数の目で見たり巡視経路や巡視時間を変えるなどの工夫をする。
イ 保護者等による巡視
保護者、関係機関・団体等の協力を得て、敷地、校舎内外の巡視を行い、不審者侵入を未然に防ぐ。
(3)登下校時の安全確保
保護者や地域の人の協力を得ながら、子どもの安全確保の取組の強化を図る。
ア 集団登下校の実施
学校の実態に応じ、決められた通学路を集団又は複数で登下校するよう指導する。万一の事態が発生した場合を想定して、「大声を出す」「逃げる」等の指導も行う。
イ 通学路安全マップの作成
通学路の安全について再点検を行うとともに、安全管理に関する安全マップを作成し、巡視等に活用する。
また、定期的な一斉下校や学年下校を実施して、通学路の危険箇所や緊急時に駆け込める「こども110番のいえ」や近所の店舗の位置等について指導するとと
もに、万一の事態が発生した場合にその機能が十分発揮されるよう、定期的に確認を行う。
ウ 街頭指導
教職員は、日常的に保護者と連携を図りながら、必要に応じて登下校時の街頭指導を行う。
(4)校外学習等における安全確保
校外学習等の学校行事においては、教職員間の共通理解を十分図り、子どもの安全確保を徹底する。
ア 事前計画と安全確認
事前に綿密な計画を立てるとともに、現地の安全を十分に確認する。
イ 安全指導の徹底
子どもに対する事前の安全指導を徹底する。
ウ 非常時の連絡体制の整備
万一の事態が発生した場合の現場での責任者や連絡方法等を予め定めておく。
(5)安全に配慮した学校開放
学校開放(授業日)に当たって、子どもの安全が確保されるよう措置を講じる。
ア 不審者の侵入防止のための方策
開放部分と非開放部分との区別を明確にし、非開放部分からの侵入を防止する。
イ 保護者や地域の人による協力
安全確保について、保護者や地域の人に協力を依頼する。
(6)学校施設面における安全確保
来訪者を確認し不審者の侵入を未然に防止するとともに、万一不審者が侵入した場合に、早期に発見できるよう施設・設備の管理に努める。
ア 門扉の管理
登下校時以外は門扉を閉めるなど、敷地や校舎への入口等を管理可能なものに限定する。また、敷地の境界を告知することによって、不審者の侵入を未然に防ぐよう努める。
イ 防犯設備の状況
警報装置や防犯監視システム等を設置している場合、作動状況を点検する。
ウ 施設・設備の点検補修
校門・フェンス・外灯・センサーライト・鍵等を定期的に点検し、必要な補修を行う。
エ 環境整備
死角の原因となる障害物を撤去するとともに、平素から整理整頓に努める。
オ 緊急時における部屋の確保
危害を加えるおそれがある者が侵入した場合、一時的に隔離しておく部屋を決めておく。
4 不審者侵入時の危機管理体制の確立
(1)学校における危機管理体制の確立
子どもと教職員の生命、学校への信頼、日常の学習活動を守るため、学校・家庭
・地域社会が連携し、安全に対する意識を高め、緊急事態発生時にすばやく対応できる危機管理体制を確立する。(P5〜P6参照)
(2)緊急時の対応における留意点
緊急時においては、教職員は子どもの安全を確保するとともに、自らの危険を回避し、次のような点に留意して対応する。
ア 防犯ブザーや非常ベル等により、事件の発生を周囲に知らせ注意を喚起するとともに、避難場所を具体的に指示して子どもを避難させる。
イ 一人で対処しようとせず、大声をあげたり子どもに指示したりして、110番通報や他の教職員の応援を求める。
ウ 刃物等の凶器を持った不審者と対峙する場合は、防御できる道具を活用し、子どもに近づかせないようにして、応援を待つ。
エ 事件発生の情報を速やかに伝達し、あらかじめ決められた指揮命令系統に基づいて対応する。
オ 負傷者が発生した場合は、119番通報を行うとともに、救急車が到着するまでの間に意識や呼吸の有無、傷害の状況を確認し、必要な応急手当を行う。
カ 危険の回避後は、他の教職員と連携して子どもの動揺を鎮める。