第T章 学校の危機管理の在り方
学校独自の危機管理マニュアルを作成すること自体が目的化してしまうと、緊急事態発生時に機能しない危機管理体制となってしまうおそれがあります。これを避けるためには、まず、教職員全員が危機管理についての高い意識と正しい知識を共有し、その上に立って、学校安全計画の中に危機管理に関する内容を盛り込み、これを踏まえて、日常及び緊急時に具体的に対応できるよう、必要事項や手順等を示した学校独自の危機管理マニュアルを作成し、充実させる必要があります。
そこで、この章では、学校における危機管理の意義は何なのか、危機管理マニュアルはなぜ必要なのかといった基本的な事項についてまとめました。
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1 学校での危機管理の意義
(1) 危機管理の定義
「危機管理」とは、「人々の生命や心身等に危害をもたらす様々な危険が防止され、万一事
件 ・事故が発生した場合には、被害を最小限にするために適切かつ迅速に対処すること」と
定義されている。なお、「危険」には、自然災害、感染症、事故など様々なものが含まれるが、
本手引では「不審者侵入」に対象を限定している。
(2) 学校における危機管理の目的
子どもや教職員の生命や心身等の安全を確保する。
ア 危険をいち早く発見して事件・事故の発生を未然に防ぐこと。
イ 万一事件・事故が発生した場合には、適切かつ迅速に対処し、被害を最小限に抑える
こと。
ウ 事件・事故の再発防止と教育の再開に向けた対策を講じること。
(3) 学校における危機管理の体制づくりの意義
学校における危機管理では、事件・事故を未然に防ぐため、次のような体制づくりが大切
である。
ア 校長が責任者となり、安全担当者を校務分掌上明確にし、機能する危機管理体制をつ
くる。
イ 教育委員会をはじめ、警察等の地域の関係機関・団体との連携を確立し、協力可能な
体制をつくる。
ウ 保護者や地域の人に対して危機管理への理解と協力を求める。
(4) 学校安全計画と危機管理
学校安全計画は、学校保健法で作成が義務付けられている学校保健安全計画のうち、
安全に関する計画として位置付けられる。学校安全計画と学校保健計画は別個に作成する
ことが望ましい。
学校安全計画には、安全教育に関する事項、安全管理に関する事項、安全に関する組織
活動が含まれる。
危機管理の内容には、不審者侵入等多様な事件・事故に十分対応できるように、これらの
3つの事項にまたがって計画しておく必要がある。
2 学校における危機管理の進め方
概ね次のような順序で行う。
ア 安全担当者を校務分掌上明確にし、学校安全委員会等を中心に、危機管理体制づくりを推
進する。
イ 地域の関係機関・団体との連携を確立し、保護者や地域の人の理解と協力を求める。
ウ 学校独自の危機管理マニュアルを作成する。
エ 危機管理に関する教職員研修を積極的に行い、教職員の危機管理意識の向上、維持に努
める。
オ 危機管理マニュアルが有効に機能するよう防犯訓練を実施する。
カ 防犯訓練により得られた課題をもとに、危機管理マニュアルをより実効性のあるものに改善
する。
3 危機管理の視点
危機管理は、事前の危機管理と事後の危機管理との両方をあわせて考えることが必要である。
ア 不審者の侵入を未然に防ぐための危機管理
学校内への不審者の侵入を防ぎ、子どもや教職員等の安全を脅かす事態が生じないよう、
対策を講じる。
イ 事件発生直後の危機管理
侵入した不審者から、子どもや教職員等の安全を守り、速やかな状況把握と救急救命措
置、被害の拡大防止・軽減のための対策を講じる。
ウ 不審者退去後・逮捕後の危機管理
事態の収拾や内外からの問合せに対応するとともに、事件・事故の再発防止と教育の再開
に向けた対策を講じる。
4 学校及び関係機関・団体等の役割
ア 学校
◇ 子ども、教職員等の安全確保
◇ 学校施設設備や通学路の点検
◇ 防犯教育の推進
◇ 不審者への対応方法等の検討
◇ 教職員、子ども、保護者等への危機意識の啓発
◇ 学校安全及び不審者情報の整理・管理
イ PTA・保護者等
◇ 子どもへの安全指導と通学路の安全点検・通学時の安全指導への協力
◇ パトロールや不審者情報の提供
◇ 事件・事故発生時における保護者間の支援・協力
ウ 地域社会
◇ パトロールや不審者情報の提供
◇ 事件・事故発生時の避難場所の提供(「こども110番のいえ」など)
◇ 事件・事故発生時の安全確保と通報(登下校時、校外学習時など)
エ 教育委員会
◇ 学校への支援
◇ 危機管理に関する指導・助言
◇ 情報収集・整理・提供
◇ 心のケアの支援・専門家などの派遣
◇ 教職員の資質向上
オ 警察
◇ 不審者情報の提供、パトロール
◇ 防犯訓練、防犯教室等への指導・助言
カ 消防
◇ 救急処置、病院への搬送
キ 近隣の学校
◇ 不審者情報の提供
◇ 他校への支援
◇ 校種間連携(幼・小・中・高・盲聾養護学校等の連携)