就学前からの支援の大切さ

T はじめに
 C市は、「特別支援教育推進体制モデル事業」の1つとして、15・16年度2年間にわたって推進地域として指定を受け取り組みを進めた。平成15年度は巡回相談1件、巡回相談日程を活用した午後の自由相談に2件の指導を受け、平成16年度は巡回相談1件、巡回相談日程を活用した午後の自由相談にさらに1件、専門家チームに3件の指導を受けた。
 また、教育委員会の主催による特別支援教育に関わる研修会が開催された。さらに今年度より就学相談の在り方やその方法について検討を加え、就学前の一人一人の子どもをしっかり把握できるようになった。その中で特別支援教育を就学前から捉え支援していくことの大切さを痛感した。ここに紹介する事例は小学校での巡回相談後の自由相談を活用し就学前にすでに指導を受け、さらに入学後も巡回相談を受けたA児が周りからの手だてや支援をする中で変容してきた。この事例から今後の特別支援教育の在り方を考えていきたい。
U 事例
対象時児
A児 B小学校1年 男
A児について
(1)  知的発達水準
 発達検査の場面では「させられること」をすべて拒否するため検査は受けられなかった。しかしA児の会話や行動の状況から知的な発達の遅れは感じられない。入学前からひらがなの読み書きができ語彙は豊富である。数の理解もできている。音読をしたり、歌を歌ったりはしない。ただ自分の興味のあること(英語活動、パソコンなど)や好きなキャラクターの絵を描いたり工作をしたりは熱中してできる。
(2)  行動の特性 
 かけひきとしての「〜したら〜する(しない)」等のことばが多く相手の思いや感情を考えた会話や行動がとれない。集団の中で活動できるときもあるが一番でないときや興味が切れた時点で集団の中から離れ、教室からの飛び出しや寝そべり大声といった行動をとる。授業の規律を守ること、給食当番、清掃当番などは出来ていない。他の友だち同士のトラブルに対して「だれだれちゃんが悪い」など厳しい目で見る。そのため、A児に関係なくてもたたきに行くなどの行動がある。
A児への支援
(1) 入学前 ―巡回相談日程を活用した午後の自由相談を受ける―
 平成15年度初めての府の巡回相談の指導を受けた。午前中はA児以外の児童について実施し午後からはこの巡回相談日程を活用した午後の自由相談を活用して指導が必要な園児について相談した。A児は幼稚園年長組に在籍していて幼稚園の公開授業の参観で要配慮児だということを園長先生から聞いて取り組みが始まった。その後園訪問、療育園訪問、市の就学指導委員会を重ねた上で学校としてどのようにA児を受け入れたらいいのか教えていただきたく当日に臨んだ。
 園での様子を紙面で報告して、小学校入学までと入学後の支援や手だての指導を受けた。

    
 
巡回相談日程を活用した午後の自由相談 
 入学当初が1つのポイント「学校とはこういうもの、学校は学習する場(今までと違う)」という認識をもたせられれば、やれるところもでてくるのでは  ・・・。
 障級(2〜3人の集団)や1対1より、多人数の中の方がやりやすいだろう(学級集団はA児の気持ちや行動をコントロールすべき支えに成り得る)関わる大人との関係が、ボタンの掛け違えのようになると攻撃的な態度になる。大人ががんばればがんばるだけA児は外れていくだろう。今は大部分はいっしょに活動でき、攻撃的な態度は一部でとどまっている。
 A児に加配的職員をつけることができたとしても、園の実態から見ると補助が振り回されないプログラムが大切。ねらいをしっかり持って、場を切り替えていくことも考えられる。依存が進むとかえって入れないケースもある。 
 
 B小学校では校内就学指導委員会が中心になりA児の「入学まで」「入学式」「入学後」について話し合いを持った。また、幼稚園との打ち合わせ、療育園と幼稚園の職員を交えた研修、母親との懇談を重ねていった。入学までに幼稚園でも出来る支援をしてもらった。
(2) 入学式当日
  平成16年度になり校内コーディネーターが中心になり春休み中に母親と懇談会を実施した。懇談の内容は@春休みの様子A学校生活を安心させるためB入学までの諸準備であった。A児の親にとっては初めて入学する子でもあり、親が入学式から戸惑うことがないように入学式当日の流れを渡し理解してもらったり、学校生活のスタートがスムーズにきれるように配布プリントを事前に渡し説明をした。
 
 
入学式当日の本児の様子 
*A児なりに緊張し、がんばっている姿が見られた。
*がんばり過ぎかチック症状がでていた。(教室)
*事前に段取りは知らせていなかったが、先生の話を集中して聞いていた。
*担任の話やゲームにもよく反応していた。
*式中には、あくびをよくしていたが、前々日祖父の不幸があって、家庭内は大 変だったようだ。そのためかもしれない。
*写真撮影のときC児の頭をコツンとする。A児のお世話を頼まれているのだろうか。(園・母)
*両親とも満足して帰宅。出かけには「今日は行かへんで。」と父親に言ったが、しっかりとした行動がとれた。 
 
(3) 入学式以後 ―巡回相談の活用―
 入学式の次の日からA児は集団登校ができている。また授業中立ち歩くこともなく先生の呼名に対してもはっきり返事が出来た。順番を守るとか、みんなと一緒に簡単なゲームにも参加できた。下校もスムーズに出来、トラブルはなかった。
  2週間程は何もなく生活できると言われたとおり、この頃から集団の一員としての行動が出来なくなってきた。そこで早い時期に専門的な指導を得るため府の巡回相談を受けることにした。校内コーディネーターと巡回相談当日の流れやアセスメント票記入の仕方や留意点など何度も打ち合わせをして当日に臨んだ。またA児の普段のエピソードを中心に実態を捉えるようにもお願いした。またB校は職員で共通理解が出来全校でA児を見ていくという体制ができている。
   
 
巡回相談後のまとめ(支援と配慮)
【学級における支援】
  *できたときはほめて、次の目標を示す。
  *みんなと違うことをするとき「〜してもいいか」と許可を得るようにさせる。
  *授業時間は教室にいるというルールを教える。出るときは行っていい所を示し、約束のことばを決める。担任の    先生の指示で動くようにする。
  *AT(補助する教師)は、A児が必要なときに援助する。
  *A児の不安を少しでも解消するため見通しを伝えたり予告したりする。(ATの不在など)
  *A児の「できること」を増やす。
  *A児にとって非生産的なことは意味を持たない(並んで待つことなど)
  *学級にA児が見習うべきモデルやよきライバル的な存在があればよい。
  *してはいけないことを目で見てもわかるように示す。
【家庭における支援】
  *小動物を飼育させながら、弟への優しい接し方を学ばせる。
  *社会性→見本を示しながら教える。損得にこだわらず行動できるようにさせる。
  *友だち関係→関わりがもてている。(よい傾向である。)今後約束を守らせることを繰り返し教える。
  *価値観→例示をしながら価値観を教える。
  *謝ることばを意識的に親が使い、対等な関係で謝罪できることがある。社会ルールを学ばせる。 
 

巡回相談の後担任、校内コーディネーターが中心となり、家庭との連携を密にしながら支援をしてA児を育てていった。



V まとめ (成果と課題)
  市の巡回相談員としてA児のその後の様子を見にB校の参観日(10月)に学校を訪問した。図工の授業であったのでA児は先生の指示を聞きみんなと同じように制作活動をしていた。図工は大好きで普段から集中して根気よくできる。
   A児にとっては入学式をよい状態で迎えられたことが、学校生活をうまく乗り越えられる一つの手だてとなった。入学前から幼稚園でも支援の方法を考え入学後も学校と家庭と連携しながらA児を育てていったことが、しいては学級全体そして学年全体も落ち着いて学校生活を送れている雰囲気が感じられた。長期的な視野に立って子どもを見ていくことの大切さを学んだ事例である。


 B小学校、校内コーディネーターより報告 
2 2学期の様子(最近の様子・A児の変容)
  巡回相談で指導を受け、A児を支援していくことで、少しずつ学習面、生活面において変容が見られるようになっ
  てきている。
 ・ 興味のある学習、自分ができると見通しが持てた学習については、授業に集中 している。また、その時間も増
  えてきている。読み聞かせや読書は、集中して聞 いたり、読んだりしている。最近では「ミッケ」の本に特に興味
  を持っている。
 ・ 1学期にはほとんどできなかった音楽や体育の学習では、少しではあるが、歌を歌ったり、鍵盤ハーモニカを吹
  いたりすることも見られた。体育では、ボールを使った運動が一段とできるようになり、ドッジボールにおいてはル 
  ールも分かり、相手を考えて投げるなど積極的に参加できた。運動に対する自信も付き、他の運動、リトミック、体
  操、跳び箱、鉄棒と次第に興味を示し、技能も向上してきた。  
 ・ 校内マラソン大会では、周りの励ましもあり、完走することができた。
 ・ 家庭学習は、保護者の援助を受けながら、少しずつできるようになってきた。
 ・ 計算練習や漢字練習などの繰り返しの学習やA児が興味の持てない学習における支援をどうするか今後の課
   題である。
 ・ 遊び時間では、班遊び、クラス遊びも積極的に参加するようになてきた。特にドッジボールの時には、クラスの友
  達にも呼びかけるなど、友達関係も一層広がりが見られるようになってきた。                      
 ・ コミュニケーションの広がりも見られ、「ありがとう」「ごめんなさい」など の言葉も自然に出ている。そのため友達
  とのトラブルも減ってきている。
 ・ 給食はまだ偏食傾向はあるものの、工夫された弁当を持参するなど家庭の協力もあり、少しではあるが改善が
  見られるようになってきた。
   担任は、ほぼ毎日連絡帳などで家庭との連絡を密にし、共通理解ながら、校内コーディネーターともに支援して
  いった。 
 

W まとめ
  A児の事例は入学前から幼稚園と療育園と学校、家庭と学校の連携がうまくできていたことで、入学してからも担任と校内コーディネーターが中心となり全教職員が共通理解のもとA児に関わり支援することができた。
  また、市の巡回相談員としてまだまだ不十分ではあるが、A児について継続して実態を把握する中で支援の在り方を学ぶことができ、子どもが変容する中でさらに今後の課題も見えてきた。
  今年度、教育委員会の主催による特別支援教育に関わる研修会が開催された。     
  内容は次の通りです。
  1 特別支援教育の概要
  2 「校内コーディネーター」の役割及び巡回相談について
  3 今後の特別支援教育と就学相談について
 まず特別支援を必要とする児童の実態把握からしていかなくてはいけないが、担任の先生の「何か他の子と違うな。」という気づきから始まる。そして、その子どもに対しての支援や手だてをどう考えていくか一人で悩まずチームを組んで取り組んでいくことが大事だ。子どもは日々成長している。早く手だてをうつためにも巡回相談を積極的に活用していくことが必要だ。
 来年度からは15・16年度2年間にわたる「特別支援教育推進体制モデル事業」のこうした成果と課題をを生かしながら、推進地域として市独自 の取り組みもしていかなくてはいけない。各校の校内コーディネーターと連携を取りながら、巡回相談員の経験を生かし、微力ではあるが特別支援教育の推進に力を注いでいきたい。
 就学相談が今年度方法や在り方が大きく変わった。その中で小学校入学までの支援や手だてが何らかの方法でできるようになってきた。これは大きな成果だと思う。来年度もさらに特別支援教育と関わって就学相談の充実が必要となってくる。最後に特別支援教育の推進に向けて、校内委員会の整備・校内コーディネーターの指名・校内コーディネーターの養成(勤務が異動の場合を考えて) ・巡回相談の活用(力量をアップする) ・就学相談の充実(小学校入学までの支援や手だて)の5つについて来年度の課題として取り組んでいきたい。
 



 
広域エリアにおける巡回相談の取組

T はじめに
K郡内には6町1村が位置しており、小学校21校・中学校9校が設置されている。平成15年度は、特別支援教育推進体制モデル事業を1町が指定を受け、平成16年度には郡内6町1村に指定が拡大され、広域エリアにおける取組を行った。       
  巡回相談は6町1村すべての地域で行われ、24ケースについて京都府の専門家チームによる相談を行った。午前の部は、ドクターを含む専門家チームによる授業参観・学校及び保護者相談を行う取組で、小学校5ケース・中学校1ケースの相談を行った。午後の部は、ドクターを除いた専門家チームでアセスメント票を基に学校及び保護者相談を行う内容で、小学校14ケース中学校3ケース計17ケースの相談となり、総計24ケースについて専門家チームによる相談を行った。         
  本校では、保護者・学校・専門家チームの三者が同じ場で教育相談を行い、検査データや学校での状況、生育歴を含む家庭での様子等、保護者の了解の下に児童の情報について共有し合い、具体的な教育支援について検討を行った相談事例を報告すると共に、郡内の広域エリアを受け持つ巡回相談員として、どのような取組が出来るのか手探りで歩んだ1年を報告したい。
U 相談ケースへの巡回相談員の関わり方
 府の専門家チームを活用して特別支援教育を推進していくことは、どの地域においても初めての取組で、手探りの状態が実情である。巡回相談員としては、まず各町村の教育委員会にその存在を認知してもらうことから始めることとした。以下、巡回相談に至るまでの巡回相談員の動きと巡回相談後の関わり方について簡単まとめたい。
 巡回相談員が各町村の教育委員会にそれぞれの学校での相談ケースについて問い合わせを行い、各校への個別連絡に対する承認を得る。
 相談ケース当該校にケース児童生徒について問い合わせをする。
 巡回相談員が通級指導教室担当者であることから、ケース児童生徒の今までの教育相談歴・諸検査歴について当該校と連絡を取りながら情報収集を行う。
 当該校特別支援教育コーディネーターと巡回相談員が連携を図り、ケース児童生徒のアセスメントを行う。
 アセスメント票に基づき、ケース児童生徒の指導仮説・指導方針を、当該校の校内委員会で特別支援教育コーディネーターを中心に検討し、作成してもらうことを依頼する。
 専門家チームによる巡回相談を受ける。
 「巡回相談後の判断と指導仮説」作成のために、当該校特別支援教育コーディネーターと巡回相談員が相談を行う。
 巡回相談で専門家チームから受けた指導・助言を基に、ケース児童生徒の具体的な支援と配慮について、巡回相談員が再度巡回相談を行う。当該校特別支援教育コーディネーターと連携し、ケース児童生徒支援の短期目標を設定し、次回の巡回相談(前回の評価と新たな短期目標設定)につなげる。
 実際には、24ケースすべてにこの動きが可能であったわけではなく、各地域・校種及び学校間で特別支援教育に対する捉え方に差異が認められ、取り組み方も様々であった。しかし、この具体的な動きを通して、特別支援教育コーディネーターを中心とした校内委員会が各校で少しずつ有効に機能し始めている。

 
V 事例
CASE 小学校1年生 男児


(保護者)集中できない。状況の変化にすぐ対応できない。
(担 任)友だちとトラブルを起こしたとき、どのような声かけをしたらよいか。本児の言動を周りの児童にどう理解させるか。
指導仮説


@知的な遅れはない。
A言葉の指示の入りにくさ、対人関係の取りにくさ、特定の物にこだわる等、広汎性発達障害の特徴はあるが、断定は出来ない。



 導 
@抽象的な言い方をせず、「どうすればよいか」を具体的な行動で伝える。
Aこだわりや興味を受け止めながらやりとりをし、「今は何をするときか」を促し、少しずつ現実に戻す。
B不適切な関わり方(叩く・暴言等)が見られる場合、まず子どもの気持ちをくみ取り代弁しながら、望ましい関わり方を示し、学習させる。
学級での指導の手だて























 









 
@座席への配慮を行う。
 ・前列で、出来るだけ周りの刺激の少ない場所にする。
A常に注意喚起を促し、学習課題に注意を向けるように支援する。
 ・指示は解りやすく簡潔にする。
 ・学習の見通しを事前に提示する。
 ・作業が終わった後の過ごし方を教える。
B苦手な課題(聞く・音読・読み取り等)についての支援を行う。
 ・常に声かけをして、注意を向けさせる。
 ・音読は、交互読みや一斉読み等の工夫を行う。
 ・絵や図形など視覚的な手段を用いて場面理解を進める。












 
@整理整頓をさせる。
 ・机の周りの整理の仕方を具体的に教える。一緒に片づける。
 ・学級全体でも取組を行う。
A得意なこと(漢字・計算・工作等)が学級で認められる場の設定をする。
 ・漢字を使った言葉や文を発表させたり計算の仕方を発表させたりする。
Bこだわりや興味を肯定しながら、学校生活のルールを教えていく。
 ・捕ってきた虫の話をさせたりしてから着席させる。
C視覚的な手がかりを使って、相手の感情が解るように支援する。
 ・困った顔、悲しんでいる顔、笑った顔等の絵カードを作成し利用する。
Dトラブルになったときは、強く注意したりその場で理解させようとしたりせずに、相手が困っていること、悲しんでいること等をきっちりと伝える。
 ・他児のトラブル時の解決の仕方を意識的に学ばせる。
E班活動や係活動・当番の仕事等を具体的に教える。
 ・黒板はいつ消すか、給食当番ではお皿を誰に渡すか、雑巾でどこを拭くか等。
家庭での手だて




@頑張ったことに対して、目に見える評価をする。
A常に自尊心が育つように配慮した関わりをする。
B読む力を育てる工夫をする。(読み聞かせ・手紙等)
C整理の仕方を具体的に教える。
D学校と連携を図りながら、家庭学習を進める。
 
  
  上記の事例は、事前に保護者に了解を得た上で、検査データを含む児童のあらゆる情報を保護者・学校関係者・専門家チームで共有し合いながら相談を行った。情報の共有は、ケース児童に対する支援と配慮に何を活用するのが効果的かを考える際に焦点化しやすく、具体的な視点で話し合うことが出来た。加えて、今後も継続的に相談を行うことを確認し合い、参加者一同、今後の支援の方向性に見通しが持てる展望を感じた。
  将来的には、すべての学校で保護者と情報を共有する方向性での取り組み方が望ましいと考えられるが、そのためには、保護者と学校間の確固たる信頼関係が前提となり、特別支援教育コーディネーターを中心とした校内委員会の力量が問われることになる。日常的なきめ細やかな情報交換や相談活動の大切さを改めて感じるところである。
  尚、上記の事例のまとめは、巡回相談員が作成したものではなく、当該校校内委員会で検討・作成していただいたものである。巡回相談員は、当該校特別支援教育コーディネーターと相談を行い、資料の提供等の側面的な支援を行ったに過ぎないことを付記しておきたい。
  今年度は、巡回相談員としてそれぞれの学校の特別支援教育コーディネーターを中心とした校内委員会に働きかけ、連絡・調整を行うことを大切にした取組を行ってきたので、側面からの支援が多く、巡回相談員だけで資料を整理したり報告書を作成したり、支援計画を作成したりという動きには至っていない。今後の検討課題としたい。


W その他の事例を通して学んだこと
専門家チームによる巡回相談の活用
(1)  各校で、校内の特別支援教育コーディネーターを中心とした校内委員会が計画的に取り組まれるようになった。毎月の開催の定例化を行ったり、アセスメント票の作成に着手し、指導仮説や指導方針の検討、作成を行ったりすることを通して、児童・生徒への具体的な支援と配慮について、校内委員会での取組が具体的に進められている。
(2)  或る町内には、「特別支援教育研究委員会」が設置されている。平成16年度は、会長(校長会代表1名)・副会長(教頭会代表1名)・庶務(教務主任会代表1名)・事務局(教育委員会指導主事1名)・委員(各小学校・中学校より1名ずつ・巡回相談員1名)で構成されており、委員は、各校の特別支援教育コーディネーターが当たっている。その各校の特別支援教育コーディネーターを中心とした町内特別支援教育研究委員が、モデル事業巡回相談にオブザーバーとしての参加を行い、教育相談の実際を参観し、各校の校内委員会の取組に生かしている。
保護者からの情報収集のポイント
担任による学習・行動等の観察の視点
検査結果の評価の仕方
判断と指導仮説の立て方
具体的な支援と配慮についての考え方
ケース検討後の取組  
午前のケース例
(1) 午前のケース例:
 専門家チームから受けた具体的な支援と配慮についての指導の中に、通級指導教室での取り組み方について、「専門の療育機関での取組に学ぶ」という指導を受けたケースがある。それを受けて、巡回相談後早速通級指導担当者が保護者と共に療育機関での訓練の様子を参観し、その後の指導に生かしている。
午後のケース例:
 午後のケースは午前のケースに比べて相談時間が短いために、相談後は巡回相談員が引き継いで巡回相談を行っている。
(2)  ケース児童生徒について、学校からより詳しいアセスメントを行う。 授業を参観し、具体的な支援と配慮の短期目標について、校長・教頭・特別支援教育校内コーディネーターと相談を行う。   再度巡回相談員が巡回相談を行い、前回の評価と新たな目標設定を行う。
(3)  現在の担任の取組を評価し、次年度の担任に引き継いでいくために、巡回相談員が具体的な支援と配慮についてまとめる。その報告書を参 考にしてもらいながら、現担任の取組の状況確認と評価を次年度担任に適切に引き継いでもらうために、巡回相談員が当該校特別支援教育コ ーディネーターと連携を取りながら校内委員会に働きかけを行う。
(4)  各校の特別支援教育コーディネーターと連携を取りながら校内委員会へ働きかけを行い、必要に応じて保護者と通級指導教室との定期的な教 育相談を重ねていくように巡回相談員が連絡・調整を図る。他の専門機関との連携についても情報を提供し、適切な支援計画につなげていくよう に調整を図る。


 
X 今後の課題
 6町1村で小学校、中学校合わせて30校という広域エリアにおいて、巡回相談員が通級指導教室担当者として通常の通級指導や教育相談業務を行いながら、 きめ細やかな巡回相談を行っていくことには様々な困難が伴う。その条件を乗り越えて、適切な特別支援教育を推進していくためには、広域エリアでの支援体制作りが重要であり、 各校特別支援教育コーディネーター間の連携や学習の場の充実が必要であると考える。
 また、各町村により地域の状況・学校の状況・児童生徒の状況が大きく異なる広域エリアにおいては、それぞれの状況をよく見極めながら支援を行うことが求められる。 そのためには、各校の特別支援教育コーディネーターと十分に連絡・調整を図りながら進めていくことが大切である。
 さらに、日常的な教育相談や巡回相談を積み重ねていくことが、児童生徒を取り巻く状況の理解につながり、具体的で適切な支援につながっていくと考えられる。それぞれの校内委員会の歩みを尊重していく姿勢を大切にしつつ、各校の個々の児童生徒のそれぞれのニーズに対する適切な支援の充実について、関係行政・学校・保護者と共に連携し推進していきたい。



システムを生かし、チームで取り組む相談活動

T はじめに
 D市には「ことばの教室」が5教室、「ことば・きこえの教室」が1教室設置されており、開設以来、通級指導教室と市教育委員会の発達相談窓口としての中心的役割を果たしてきた。毎週設定している定期相談では、6名の担当者がセンター校に集まり、1ケースに対して2名体制で発達相談を行っている。相談は保護者が直接申し込むこともでき、初回相談後も担当者が関係諸機関との連携をとりやすい体制が保障されている。
 このような従来からの柔軟な市の取組をベースに、平成13年度から2年間のLD事業、更に15・16年度には特別支援教育モデル事業の総合推進地域の指定を受け、市の教育支援体制のあり方を研究実践してきた。平成15年度から、本格的に市独自の巡回相談システムが動き出し、16年度はことばの教室担当者6名全員が巡回相談に携わった。
 現在、市内の小学校22校、中学校9校の児童生徒及び就学前幼児を対象に、次のような役割を受け持っている。
 
 
市内児童の通級指導
 構音課題及び言語発達課題(LD・ADHD・PDD等を含む)のある児童を対象とする。
 検査の結果、通級指導の必要性が認められ、保護者が希望された場合に教育委員会に申請して指導を始める。
小中学生の教育相談
(1) 外来相談       毎週 木曜日 (必要に応じて火曜日も行う)
 主に担任や校内のコーディネーターとの相談を経て、保護者から申しこみがあり、発達検査・教育相談を行って教育支援の在り方を考えていく。
(2) 教育相談       定期・不定期
 通級の有無に関わらず、必要に応じて教育相談を行う。
就学前幼児の教育相談   毎週 木曜日 (必要に応じて火曜日も行う)
 保護者からの電話予約を受け、発達検査を行った上で支援について相談をし、就学予定先の小学校の教育相談担当者との橋渡しをする。
巡回相談         毎週火曜日に設定
 学習面・行動面での困難さが目立ち、発達課題が要因ではないかと考えられる児童生徒について、各小中学校の校内委員会で検討の上、教育委員会に巡回相談の申しこみがある。2〜3名の巡回相談員(市の担当指導主事・ことばの教室担当者6名)が学校に出向き、授業参観での様子やアセスメントをもとに、児童・生徒のとらえ方や支援体について担任・コーディネーター・校内委員会メンバーと相談をする。


U 相談事例
対象児童   A児 小学校1学年 女児
保護者主訴
・些細なことで自分の気持ちが押さえきれなくなり、学校で自分勝手な行動をとってしまう。
担任主訴
・授業規律が守れない。
・入学当初から集団行動が取りにくく、学習中に急に怒って泣き叫んだり、その場を飛び出したりする様子 が目立つ。
このケースの相談の流れ
  
校内支援 ことばの教室教育 相談(担任・コーディ ネーター)  外来発達相談  (保護者) 巡回相談

ことばの教室 通級指導開始 専門家チーム ケース検討 教職員の校内 体制共通理解 担任・コーディネー ター・通級担当との 相談継続
              
                        
(1) 校内支援
本児は入学当初から周囲の何気ない言動や、本児自身の小さな失敗をきっかけに、頻繁にパニックを起こした。担任は、本児と接して「知的な力は十分あるが何か指導の難しさがあり、特別な配慮が必要な子である」と感じていた。そのため、日々の細かな観察記録をしながらクラスでの対応の手がかりが見つかるように努めた。また、保護者との連絡を密にして学校生活の実態を伝えた。
 校内体制の配慮では、パニック時の飛び出し等に対する安全の確保を第1に考えて1学期を過ごした。
(2) ことばの教室教育相談(担任・校内コーディネーター)
 自己コントロールの弱さが目立ち、集団行動がとりにくい本児に対する支援方法について、担任と校内コーディネーターがことばの教室に相談。
 担任の長期的な観察記録に基づいた詳しいエピソードから、自己コントロールの弱さと見られるパニックは、本児の場面理解の弱さが原因ではないかと思われた。
(3) ことばの教室外来相談(保護者)
 担任との相談の上、保護者が児童理解を深め、支援の手がかりを得るための1つとして発達検査・相談を申し込まれた。検査結果から以下のような特徴が見られた。
・知的な発達の遅れはない。
・始終落ち着いた検査態度で、一定の環境が整った場面では指示がしっかり聞けるという印象をもった。
・言語能力は高いが、解釈がややずれることがある。
・指示に対して融通が利きにくく、具体的な指示が必要である。
・視覚認知においては、細かい部分にはよく気づくが、有意味な全体的なまとまりに気づきにくい。
・多弁でイントネーションに特徴がある。
(4) 巡回相談
 ことばの教室での外来相談と並行して、学校を通して市の巡回相談の申し込みがあった。巡回相談員が授業参観後、校内委員会と本児の言動の捉え方や対応、必要な校内体制について相談をした。
 本児の独特の認知特性を理解し、長期的な見通しを持って配慮していくために、専門家チームでのケース検討を受け、教育・医療関係者等のアドバイスを受けることになった。
(5) 通級指導開始
 本児は、認知特性による場面理解の弱さがあり、それによる状況判断のズレが集団生活でのパニックの大きな要因であると考えられた。
 ことばの教室では、小集団でのプレイやソーシャルスキルトレーニングによって困難場面の状況理解や解決方法を考え、社会性の育ちを補う指導を設定した。
 また、学校のクラス集団では、以下のような方針を持って指導する必要があることを担任と確認した。
・見通しを持たせる為に予定の予告や具体的な指示を心がける。
・スモールステップで個人の目あてをたて、達成感の積み上げをすることで自己肯定感を持たせる。
・シール等で目に見える形の評価の足跡を残していく。
・クラス集団が本児にとって自分のの居場所であると感じられるように、他の児童との関係調整に配慮する。
(6) 専門家チームケース検討
 担任・校内コーディネーター・通級担当者が事前に相談の時間を持ち、それぞれの視点から捉えた本児の実態をアセスメント票にまとめた。これをもとに、各専門家から以下のようなアドバイス受けた。
・見通しを持つ力が弱く、予想外の出来事に出くわすと対応しきれずにパニックを起こすのだろう。手順、順序をわ かりやすく伝えてやるとともに、予想外のことに対する受け止めの幅を持たせていく必要がある。
・パニック行動は問題解決能力が育ってくれば少なくなってくると思われる。クールダウンの場と方法を決めておく 必要がある。
・できるようになったことや達成するまでの過程を評価し、自己肯定感を育てる。
・家庭、学校で本児の特性を理解した対応をし、二次的な障害を防ぐことが必要である。
(7) 校内体制の共通理解・担任相談継続
 その後新学年になり、担任が代わった後も校内で細かな引継をし、保護者やことばの教室担当との定期相談も続けている。
V 成果と課題
 本児は時々パニックはあるものの、周囲の理解と適切な対応によって次第に学校生活の見通しを持てるようになり、友達関係も広がってきて楽しく元気に登校している。
 巡回相談や専門家チームでのケース検討会議を利用することで、日々子どもと向き合っている担任が、明日からすぐに使える支援方法のヒントを得ることができる。また、一人の子ども像を真ん中に置き、様々な視点でその子の困り感やその要因、可能な支援を探るための話し合いの持ち方を学び、今後の校内委員会の活動に生かす事もできるだろう。
 このケースでも、得られたアドバイスを担任一人のものとして終わるのではなく、コーディネーターが中心となって校内特別支援委員会の研修を持ち、全職員に報告して共通理解を図られた。
 また、小学校入学後顕著になった本児の不適応行動に、大きな不安を感じていた保護者は、行動だけを見て本児をとがめるのではなく、この子の特性を理解した上で柔軟な対応を継続してきた学校の姿勢に安心し、家庭でもプラス評価を心がけてこられ、本児の成長に繋がった。
 この他、たくさんある相談ケースの中には次のような相談経過をたどったケースもある。

         
校内支援 巡回相談 外来発達相談  (保護者) ことばの教室 通級指導開始

専門家チーム ケース検討 医療的ケア 教職員の校内 体制共通理解 担任・コーディネーター・通 級担当との相談継続
        
        
 このケースでは、巡回相談や専門家チームの活用により、教育現場にかかわりの深い医師とのネットワークが広がり、脳波異常による行動障害が診断され、速やかに治療が行われた。その結果、児童の学校生活での困難が大きく改善された。
 どのケースでも、巡回相談や専門家チームの活用を機に整理された児童観と支援の手だてを、学校全体、家庭、ことばの教室等、その子に関わる者の間で共通理解するとともに、定期的に細かく評価をしながら流動的な支援を続けていくことが、子どもの変化につながるといえる。
W まとめ
 本市では、従来からの体制を生かし、ことばの教室を活用した巡回相談活動が浸透しつつある。巡回相談の利用を重ねる事で、校内での特別支援に対する意識が高まり、コーディネーターを中心とした校内委員会の活動が活発になってきた学校もある。
 これは、システムの整備と共に、学校と担当者が連携して日々の地道な相談や子どもへの支援を続けたことの成果であり、今後もこのような人と人との繋がりを大切にした相談活動が重要であると考える。



チームを組み、動き始めた特別支援教育
〜巡回教育相談を活用し、支援体制をどのように作り上げてきたか〜
T はじめに
 E町は、推進事業指定地域の中で最も小さく、人口約1万6千人、小学校2校と中学校1校の町である。本町における進事業の取り組みは、平成15年8月に実施された「特別支援教育についての小・中合同研修会」(町教育委員会主催)からスタートした。
 ここでは、平成16年度に実施された巡回相談で、アスペルガー症候群であろうと判断された児童のケースを紹介したい。そして、この巡回相談を活用して、学校や地域に支援体制をどのように作り上げてきたのかを考察してみたい。
U 事例                                      
対象児  A児 小学校2年男児
主訴
(保護者)
 授業を落ち着いて受けられない。こちらの話の内容が伝わらないことがある。大人数の中では耐えられないようである。宿題に、取り掛かろうという気持ちにさせるには、とても時間と労力がかかる。
(担 任)
 教室にいることがとても苦痛なようで、給食を食べる時以外は、飛び出すことが多い。騒音や暑さを嫌がり、課題をさせようとしても逃げて行く。
A児の特徴
(1) 知的発達水準
 心理検査の結果、知的障害ではない。言語と視覚とでは優位差があり、視覚動作性の力が優位である。言語概念の力は、同一基準での比較ができ始め、7歳の力を獲得しつつある。
(2) 行動特徴
 大人との1対1の関係を求めたがるが、同年齢の友だちとの関係を築きにくい。生育歴からも対人関係の育ちの弱さが見られる。
 話す時に相手と視線を合わさず、やりとりにぎこちなさが見られる。又、一人で話すと多弁傾向が見られ、コミュニケーション能力に課題がある。
 興味の偏りが見られ、電車に関しての情報や知識をたくさん持っている。
A児への支援
(1) 校内委員会として
 月2回程度会議を持ち、校内コーディネーターが中心となり、A児の実態把握や関わり方を検討した。
(2) 巡回相談員(通級指導教室担当)として
 A児が1年2学期の時、教育相談の申し込みがあり、心理検査(WISC−V・絵画語彙検査)を実施した。担任には、文部科学省の実施した全国実態調査のチェックリストと当教室の教育相談資料とに記入してもらい実態把握に努めた。
 保護者には、母子手帳を参考にして生育歴の質問紙に記入してもらった。
 当初は、高機能自閉症と仮説を立て、通級指導を開始した。だが、指導を始めてみると、WISC−Vでは低く出ていた言語の力が実際には高いので、アスペルガー症候群であろうと、仮説を変えた。新版K式検査とK−ABCの一部も実施した。検査結果や指導の様子は、担任と校内コーディネーターにその都度伝えた。
 通常学級の参観、情緒障害児学級への通級の様子の参観をさせてもらい、その後関係者と話し合いを重ねた。
 巡回相談に向けての資料、アセスメント票を校内コーディネーターと共に作成し準備した。
府教委巡回相談の活用                            
(1) 巡回相談での判断
 本児は、典型的なアスペルガーと言えるであろう。本児は広汎性発達障害の中でも、言語レベルが高い。そして電車への興味の偏り・こだわりがあり、小さい頃から特異な行動や友達とコミュニケーションがとりにくい面が見られた。そのため、医療につなげた方が良いと思われる。感覚障害(感覚過敏、鈍感)も把握する必要がある。異常な食欲、暑さや音による刺激への過敏反応も見られるようである。
 本児は、他人の感情がわかりにくいので、常識的な対応では育ちにくい。視覚優位なため、情報のキャッチにも特別な工夫が必要である。顔の表情は非常に良いので、二次障害はほとんど出ていないようだ。周りの児童との関係や保護者同士のトラブルに気をつけて、ユニークな存在を良い方向に持って行くことが大切である。
 家庭で生活習慣の力をつけるために、丁寧なプログラムを作成しなければならない。
(2) 巡回相談から学んだこと
 A児の障害(アスペルガー症候群)について職員が共通理解する必要がある。 
 A児が教室から飛び出した時や特異な言動を取った時の対応を職員で一致させ、A児について、気にすべきことと気にしなくて良いことを整理する必要がある。
 A児に社会性をしっかりとつけるためには、A児にとって分かりやすい方法で情報を伝えながら、通常の学級に参加させていくことが望ましい。
 A児が情緒障害児学級に通級する場合、ねらいをしっかりと持ち、そこでどんな力をつけて行くのかをはっきりとさせる必要がある。
 A児が確実にできることを約束して守らせ、褒めてもらうことを通して、心地よい体験を積み重ねることを大切にする。
巡回相談後の取り組み                              
(1) 校内委員会の指導仮説(目標)
 本児の基礎集団は2年B組、担任はH先生だということを認識させる。
(飛び出した時は、追いかけない。必ずH先生の指示を聞きに行かせる。特に危険でない限り、余りかまわない。)
 本児の理解しやすい方法で(視覚的情報)、一日の学校生活の流れを分かりやすいものにし、落ち着いて学習する習慣を育てる。
 2年B組、情緒障害学級への通級、他校通級指導教室への通級、それぞれのねらいと、具体的活動をしっかりと決め、連携して取り組む。
 2年生の基礎的な学習は、情緒障害学級への通級で集中的に指導する。
 情緒障害学級の生活単元学習やゲーム遊びの中でソーシャルスキルを育てる。
(2) 通常学級における支援
学習
・本児にとってわかりやすくするための工夫をする。(視覚から情報が入るようにする図工などは、作業手順を細分化して示し、見通しが持てるようにする。)
・習熟や練習は無理にさせない。
・指名の順番を考える。(他人のモデルを見てからできる、2番目ぐらい)
・手遊びを無理に止めさせることはしない。(本児にとっては自分をコントロールするのに必要な時間)
・何もせずに待つことが難しい子なので、退屈な時間を作らない。
・本児が自分で気づき、友だちから学ぶ場面を作る。
生活
・拒絶をするとパニックになるので、受容を基本にして行く。
・ほめる機会をたくさん作り、プラスの体験を増やす。必ずできる約束をし、約束を守る体験をさせる。お手伝いを頼む。
・「他の児童と同じでなくてもよい場面もある。」を整理する。
友だちとの関係
・「担任の本児への態度や接し方を見て、クラスの児童は、本児への関わり方を学んで行く。」ということをいつも頭に入れ、ユニークな存在であることをまわりの子どもたちに気づかせていく。
・本児と刺激し合う児童への配慮をする。
(3) 自校障害児学級への通級支援・・・細案省略、概要のみ
・毎日、1時間目の生活の時間に当番活動の仕事を組み、その日のスケジュールを視覚化して提示することで、生活の見通しを持たせる。
・小集団で劇遊びやゲームに取り組み、自分の役割や位置に気づき、順番やルールを守る力を育てる。
・学年相応の学習課題は、短時間に集中して取り組ませ、達成感を育てる。
(4) 他校通級指導教室における支援・・・細案省略、概要のみ
・課題を視覚化して提示し、見通しを持って行動できる力を育てる。
・聞く・話すのコミュニケーション力を育てる。
・ソーシャルスキルの力を高める。
・好きな電車の世界を広げ、学習や対人関係を育てる力につなげる。
(5) 家庭における支援
・医療機関を継続的に受診し指導を受け、A児の障害特性の理解に努める。
・基礎的な生活習慣の力や社会常識を育てる。朝起きてから出かけるまで、帰宅してから寝るまで、決まった順序で過ごせるようにスケジュールを視覚化する。時計が読めるので、腕時計を持たせ時間を意識して行動できるようにする。本児のできそうなことのチェックリストを作成する。
・できた時はほめて、本児の喜ぶほうびを工夫するなどして、自信を育てる。
・本児の好きな電車の世界に付き合い、経験やコミュニケーション力を広げる。
(6) まとめ
 本事例は、巡回相談員が所属しない他校の事例であるが、当校では、管理職や府コーディネーター研修修了者を中心にして、校内支援委員会が定期的に持たれ、積極的な動きが作られている。A児に対しても、障害児学級への通級と言う形態でも支援がなされている。学校は、夏休みの校内研修で、アスペルガー症候群についての学習会を持ち、巡回相談で学んだことを全職員のものとし、A児への関わり方も意思統一をした。
 巡回相談後、保護者は本児と共に、医療機関へ通い始めた。
 巡回相談を受けることで、A児の理解や支援方法が一定整理された。周りの者の関わり方が整理されたことで、今後A児はまだ課題が多いものの、少し楽に生活していけると思われる。
 そして学校は、この経験をきっかけに、通常学級にいる軽度発達障害児に対して、チームを組んで支援していく動きを作ることができたと言えよう。
V おわりに                             
巡回相談担当者の学校の動き
・特別支援校内委員会を設置したことで、「ひとりひとりのニーズに応じた教育」を考えて行くという視点がはっきりしてきた。そして、LD教育士取得2名、府LD研修終了1名の基礎研修終了者が委員会の核となった。
・夏休み中に2回の校内研修会を持った。軽度発達障害と思われる児童を学年討議を経てレポートし、交流会を持った。その後、府教委の「LD、ADHD、高機能自閉症支援ガイド」を読みあい、支援の手立てについて学んだ。後の1回は、指導の見通しが立ちにくいB児C児2名の事例研究会を持った。
・秋の府巡回相談にB児を申し込むことを校内委員会で決定した。実態把握を複数の目で行うために、エピソード集やアセスメント票を、担任、同学年担任、少人数加配、養護教諭、栄養職員、旧担任、校長、巡回相談担当者とで作成した。又、保護者に巡回相談を勧める担当として、担任と校内委員会の代表として養護教諭と巡回相談担当者とが当たった。その結果、保護者も積極的に受け止めてくださった。そして、相談結果については、職員会議で報告会を持った。
・C児を乙訓LD研究会準備会の事例研究会に事例提供した。夜の研究会であったにも関わらず、本校の職員が積極的に多数参加した。
町全体の動き
 就学指導委員会の中に、特別支援教育部を平成17年度から設けることが決定された。
 そして、本年9月から、町特別支援コーディネーター会議を開催している。各校複数の府コーディネーター研修修了者(校内コーディネーター)・担当校長・教育委員会指導主事・巡回相談担当者が構成メンバーである。9月・10月・1月・3月と事例研究を中心に実施予定である。
 町内の3つの学校全部が、巡回相談か午後の自由相談かのいずれかに関わることができた。そして、そのことをきっかけとして、特別支援教育がチームを組んで、動き始めた本町である。



   
 支援シートを活用し 状態像を多面的に捉え 支援につなぐ
T はじめに
 特別支援教育推進体制モデル事業の推進地域の指定を受ける中で、F市では15年度には13名、16年度には15名がコーディネーター基礎研修会を修了している。
 市の学校数は小学校11校、中学校4校であるので、各校平均2名弱が研修を修了したことになる。本稿では、A小学校コーディネーターを中心に取り組みを進め、報告者も地域巡回相談員という立場で関わった府のモデル事業巡回相談でのA児の事例を報告するとともに、この2年間の市での取り組みの報告と今後の方向性について考えたい。
U A小学校3年生女子の事例
■主訴■
 担任
  ・一斉指導では作業ができにくい。
  ・友達と関係が結びにくい。
 保護者
  ・姉妹間のけんかで、幼い妹に手加減ができない。
  ・公共の場などでも大声で話したり独り言を呟いたり泣き出したりなど、場に 相応しくない行動をしてしまう。
  ・年下や本児と同じような社会性の弱さを持つ子と遊ぶ事が多いが、それで良 いのかが心配。 
■判断仮説■
   ・大きな知的な遅れはない。
  ・聞き取る力、聞いたことを記憶する力の弱さがある。
  ・聞いたことを周囲の様子と関連づけて総合的に判断する力も弱い。
  ・人の意図や考えを理解する力にも弱さがある。
  ・学校では周囲に合わせることで状況理解の困難さを補っている面もある。
    しかし家庭や他の場では、それらの弱さが鮮明な形で表れ、不適切な行動
    に繋がっている可能性がある。
  ・学習面にも困難がみられる。
     算数・・数のしくみ(位取り)の理解。
         文章問題で記述をもとにした論理的な推論。
     国語・・一度間違えて覚えた漢字は修正が効かない。
         読解は個別学習の場では学年相応の理解が可能。 
■指導仮説■
  ・場面や指示理解の困難を補うため、具体的な説明と簡潔な指示をする。
  ・判断の弱さから来る不適切行動に対しては、場面を区切り、不適切行動に代わる適切な行動を具体的に
   指示する。
  ・学習面の弱さに対しては、例えば漢字を間違えて覚え修正が効かないなら、初めの段階でなぞりの学習
   を取り入れるなど正しく覚えることに力を入れ る。つまり、本児の特性に配慮した形での手立てを工夫して
   いく。   
■具体的な支援と配慮■
 <学級における具体的な支援と配慮>
  ・学習場面では、視覚教材や身体表現活動を多用する。
  ・場面にそった簡潔な指示をする。
  ・場面にそってルールを説明するとともに、例えば場所がわからなかったら先生や友達に聞くなど具体的な
   行動の方法も教える。
  ・休み時間などに気持ちの安定のための時間を確保する。
  ・懇談や連絡帳の活用により家庭と連携する。

 <家庭における具体的な支援と配慮>
  ・不適切行動の場面ではその制止とともに、場面ごとに適切な行動の仕方を教える。
  ・例えば姉妹間のトラブルでは、トラブルが想定される時には、物理的に離すなどいつものパターンをくずず
   などの具体的な対処もしていく。
  ・本児に“普通”を求めるのではなく、その特性をありのままに受けとめ、周囲との折り合いをつけていく方法
   を一つひとつ教えていく。

  <個別の指導の場における具体的な支援と配慮>
  ・校内 障害児学級  週1回 クラスでの学習の補充をする。
                 意欲をもって学習に取り組めるよう担任と連携する.。
  ・ことばの教室     物作りなど楽しい経験を通しての読み書き活動をする。
                 ソーシャルスキル指導をする。
 
 
                                                            

V 校内体制と市の取組
 A小学校の事例でも、市内で作成した支援シート(資料@)このシートは学習面や対人社会性の認知発達、思考や行動のコントロールの力の発達、心理社会的要因、身体発達、健康面、養育環境因など児童の状態像を多面的に見ていく事を目的に作成したものである。
 これらは、実は、学習面での課題はLDの、対人社会面の認知課題は自閉症スペクトラムの、行動面の課題はADHDの状態像を考慮して選んだ項目である。 パニックや暴言、暴力行動は心理社会的なものが起因する場合もあるが、それが発達障害の二次的な障害として現れる場合もあり、その見極めは難しいと判断しシートの項目では行動と情緒をくくった。原因を探ることはひとまず置いておいて、児童生徒の状態像、行動をありのままに捉える。その後、シートの他の情報と重ね合わせ分析を加え有効な支援へと繋いでいきたいと考えたわけである。
 この支援シートには、担任が直接記入する。シートの左側の学習や対人社会、行動情緒、身体運動などの小項目にチェックをしながら、児童生徒の実態や課題などを具体的なエピソードの形で記入していく。
 実は、このシートには専門的な用語の使用も少なくない。その為、当初は、チェックの入れ方の判断が難しい場面も多いのではないかと危惧していた。しかし、実際に記入してもらったシートには、大抵の担任はエピソードから見ても妥当だと考えられる捉え方をしている様子がうかがえた。シートの右の支援配慮の欄まで既に記入している担任も少なくなかった。
 勿論、中には、捉え方に明らかに誤解がみられる場合もないわけではなかった。しかし、その場合も、コーディネーターが支援シートの詳細を検討することで、担任の誤解を発見する事ができるという利点があった。例えば、聴覚認知、聴覚記銘の弱さがある子に、「教師の指示を無視する。我が儘な面がある。」などという記述がされていたとしたら、そうではないことを担任と確認しあうことで支援につなぐことも可能になるというわけである。
 各校のコーディネーターは、担任が作成したこの支援シートをもとに、より細かな状態情報を盛り込んだアセスメント票を作成することになる。
【校内体制】
 B小学校では、児童の状態像を捉えるための視点を校内委員会で確認するという手順を踏んだ。すなわち、従来、保護者の養育配慮の弱さ(躾の問題)とされたり、児童の性格の問題(我が儘、怠け)だと捉えられていた状態像も、軽度発達障害や心理因の視点で捉え直してみることが必要であるとの確認である。学習、対人社会の認知の未熟や歪みがあったり、思考や行動をコントロールする脳の機能の発達が未熟で不注意で落ち着かない行動があったりする子が存在するのだという視点や可能性を念頭において、それらの子への支援配慮、指導の方法を検討していこうとの確認である。
 今後、この支援シートは日常的な指導の手立ての検討や、校内の児童理解研究会での成長変化の交流、次年度に引き継いでいく資料としても活用していく予定である。更には、個別の指導計画(資料A))や将来的には個別の支援計画の基礎資料として活用していくことも考えられる。
【市の取組】
 16年5月には、市内の支援体制のモデルを作っていく場として市特別支援検討委員会が発足した。メンバーはコーディネーター基礎研修会の修了者のうちLD教育士、学校心理士の有資格者などである。
 検討委員会では、メンバーの所属する学校の実態交流をし、方向性を明らかにしていくと共に、何よりも児童生徒の状態像の理解や支援指導の在り方の研修を優先していこうとの確認がなされた。
 同時並行で、市内のシステム整備の確認もし、10月には、桃山養護学校の協力を得て市の巡回相談をスタートさせることができた。
 ここでも、相談校に、巡回相談の申請書(資料B)と巡回相談票(資料C)に添えて支援シートの提出を求めた。また、市独自の巡回相談では府の事業のようなDr.への参加要請は極めて難しい為、巡回相談報告書(資料D)も作成した。
W 次年度以降に向けての課題
 今後は、府のモデル事業、専門家チームでのケース検討、市の特別支援検討委員会でのケース検討をモデルに、特別支援委員会(仮称)を中心とした巡回相談体制の整備と市内各校のコーディネーターの研修をしていくことになる。
 特別支援委員会(仮称)の巡回相談員は、実際の巡回で児童生徒への支援につながる具体的で実践的なアドバイスができるように研鑽研修を積む事が急務である。市内各校でも、校内委員会の整備充実とともに、支援に繋ぐ為のコーディネーターの力量の向上は不可欠である。
 具体的な取り組みとして16年度の3学期には、市内全域小中15校のコーディネーターが集まり、モデル的な動きをしてきた市内数校に続く形で始動する。 これら各校のコーディネーターからの要請に連動して、市の巡回相談も本格的に動き始めることになる。
 市の他組織や機関との連携 〜障害児教育研究会、就学指導委員会、教育研究所、ことばの教室、各校のスクールカウンセラー等々〜 が特別支援体制の位置づけの中で相互機能、連携できるように調整していく必要もある。 更に、保幼小連携の取り組みを発展させる形での就学前からの早期支援の在り方、就学前療育や地域医療との連携も次の課題となってくる。 具体的には、保幼小中での一貫した支援を目指して個別の指導計画や個別の教育支援計画の作成と充実ということである。 将来的には、市の管轄を離れた高校や大学、更には就労をも視野に入れ地域での支援の取り組みも必要とされることになるのであろう。 特別支援体制の今後の道は決して平坦ではない。しかし、この2年間の特別支援教育推進体制モデル事業での経験を礎に、当面は上述の手順を踏んでの一つひとつの地道な取り組みが何よりも重要であると考える。



校内委員会と町コーディネーター会議を繋ぐ
 

T はじめに
G町が「特別支援教育推進体制モデル事業」として指定を受け、二年目を迎えた。平成15年度に、各小・中学校すべての学校に特別支援教育校内委員会が設置され、各校コ ーディネーターを中心とする独自の支援活動を進めてきている。また、町の相談員(臨床心理士)が各校に月1回訪問し、校内委員とともに事例検討や教育相談を行っている。町コーディネーター会議を定期的に開催し、各校の事例研究と巡回相談に向けての事例ケース検討やその後の状況について話し合いを続けてきた。
U 府巡回教育相談の取組の流れ
@担任の気づき → A学年会で交流(児童の観察・支援カード作成)
B校内特別支援委員会(児童の実態把握・相談票作成)
C第2回町コーディネーター会議(相談票を基に概略説明)
D担任と懇談(状況把握)→ E 授業参観・行事等での情報収集
F校内特別支援委員会(教育相談)→ G保護者との懇談
H第3回町コーディネーター会議(府巡回相談ケースの決定)
I校内特別支援委員会(府巡回教育相談についての説明・旧担任からの情報収集)
Jアセスメント票作成
K第4回町コーディネーター会議(アセスメント票を基に事例検討)
L職員会議(府巡回教育相談について説明)
M府巡回教育相談に向けて、担任と事前の打ち合わせ
N府巡回教育相談
O全職員にケースについての状況理解と支援・対応についての報告
P第5回町コーディネーター会議で報告


V 府巡回教育相談事例
対象児童   小学校3年男児
主訴
担任    対人関係においてトラブルを起こすことが多い。
保護者  本児の起こすトラブルに対して心配している。
特徴
(1) 学習等、できない時、本児の思いを聞き入れてもらえない時、自分の言動を否定されたと思った時、自分の考えと違う行動を周りの友達がした
   時、周りのことばに敏感に反応し、常に責められているという思いがあり、物に当たったり、物を投げたり、泣きじゃくる。
(2) 同年齢の子とは、正論であっても受け入れようとせず、自分の思いや理論を通そうとする。
(3) 粗大・微細運動の弱さがある。
専門家チームによる判断
(1) 知的な遅れはない。
(2) PDD周辺の児童である。
(3) 被害意識が強い。
(4) 特有の堅さは余りない。
(5) 家庭において枠づけがきちんとされてきている。
ケース理解
(1) 他の子にとって当たり前のことが、本児にはどのように見えているのか、感じられるのかを理解していくことが必要である。
(2) 被害感を自尊心に変えていくことが必要である。
(3) 禁止語は適当ではない。
(4) パニックを起こす前にクールダウンの仕方を身につけさせる。
(5) 周囲の子への対応を考える。
具体的な支援・対応
(1)  本児の言動について、どうすればよいかにポイントを当てて、ていねいに一つ一つ教えていく。
     「すごく近づいて来られると友達は怖く感じるんだよ。」接近の距離を示す等
(2)
 周りの子にも受け入れられるように、本児の変化を捕らえて、みんなの前で褒め、評価していく。
     「ごめんなさい。」と、あやまった時、「よくあやまったね。」      
 じゃんけんで負けても、素直に席につけた時、「よくがまんできたね。」等
(3)  トラブルパターンをつかみ、事前に声かけをしたり、気持ちの切り替えへの働きかけをする。また、気持ちを落ち着かせる場を仕組む。
    ・保健室へ健康観察表を持っていく・職員室へ用事を頼む・お手伝いをする 等
(4) 普段からクラスの一人一人を要所要所で認め、褒める。
(5) 保護者の悩みでもある友達関係のトラブルについて、保護者と一緒に考えていくという姿勢で関係を築いていく。
その後の状況
(1)
 担任や全教職員の本児に対する理解を深めることができた。
   全教職員が、「○○ちゃん、おはよう。」「○○ちゃん、掃除頑張ってるね。」等、声かけをしている。
(2)  担任は、本児のトラブルパターンをつかみ、イライラし出す前に対応をすることにより、本児が少しずつがまんしたり、パニックを回避できるようになってきている。
(3)  トラブルを起こした時は、行動調整を根気強く行っている。
(4)  周りの子ども達が本児を外遊びに誘い、みんなの中に入ってサッカーをする姿もみられるようになった。また、今までのように取り立てて、必要以上に本児に注意することも少なくなり、そういう状況になっても他の子が「余り言わんとき。」と逆に注意する姿が見られるようになってきた。
W 特別支援教育推進モデル事業実施の成果と課題
 推進地域を対象とした巡回相談を受け、児童の立場に立った理解が深まるとともに、現在の環境の中での手だてが明らかになってきている。
 また、事例研究等を通 して各学校全体に特別支援教育が浸透するきっかけになっているように思われる。
 今年度は町のコーディネーター会議を5回開催でき、各校の校内委員会の活動の交流及び事例研究を行った。各校の実態がわかり、ケースの支援・対応について具体的に検討ができ、実践に生かすことができた。
 町コーディネーター会の町就学指導委員会での位置づけを明確化し、保・幼・小・中の連携を築いていくことが望まれる。
 今後も、保護者、地域への啓発を積極的に進めていかなければならない。
 町コーディネーター会議で、事例検討を行った児童については、評価を行い、保・幼・小・中の接続や継続して支援を続けていくこと(個別の支援計画の作成)が必要である。

X 校内特別支援委員会組織と町コーディネーター会議
Y 支援の流れ
Z 特別支援教育コーディネーターの動き
                 

    学   校   体   制
町コーディネーター会議
   全職員 校内特別支援委員会









 
@特別支援委員会方針提示
A各担任が支援の必要な児童につ
  いて支援カードの作成の確認
B支援カードの記入例を示し記入の
  仕方を説明
Cアセスメント票については支援委 
  員が作成。アセスメント票を提示
D「ちょっと工夫しませんか?」等、参
  考資料を配布
E支援カードの作成 
@月1回特別支援会議を設
  定し、教育相談を実施
A登校しぶり等の事象は随
 時会議を開催し、対応協議
B教育相談




 
@代表者決定等    
A府巡回相談ケース相談票を各校に
 送付




 



 
 ↓


 
@支援の必要な児童の把握
A年間の具体的計画
B相談票作成   
C教育相談



 



 



 
@教育相談
A保護者へ教育相談の案内
  配布
 
@昨年度の府巡回相談ケースの報告(その後の児童の状況・変化)
A各校から出された府巡回相談ケース
  相談票を基に交流





 月 
@保護者との個別懇談会実
 施(保護者から情報収集)



 
@教育相談        
A支援カードに記入(教育相
  談での追加事項)



 
@今年度専門家チームによる事例検
  討ケース及び府巡回相談ケースの
  決定
A専門家チーム事例検討ケースをア
  セスメント票を基に事例研究
B他のケースの事例研究
C専門家チームによる事例検討ケース相談

@運動会の取組に向けて、支援の必
  要な児童の交流
@TTとして援助
 

 
10

 
@校内研修に向けて、学級1ケース
  、簡単なアセスメ
ント票を作成。
@教育相談      Cアセスメント票作成
A校内研修の打ち合わせ (新旧担任から情報収集)
B校内研修会実施


11

 
@支援の必要な児童(支援会議でケ
 ース検討をした全児童)についての
 共通理解
A府巡回相談についての要項を説
 明 
@教育相談



 
@専門家チームによる事例検討ケース
相談の報告(特に支援・対応について)
A府巡回相談ケースのアセスメント票
を基に検討
B府巡回教育相談

12



@府巡回相談ケースについてケース
  理解、判断、指導、支援・対応に
  ついて報告、共通理解
A保護者との個別懇談会で対応等
  報告
@今年度の活動について反
  省・まとめ
A教育相談
B保護者へ教育相談の案内
  配布
 





 



@支援カード完成(対応・変化等の記
  入)

 
@教育相談
A次年度に引き継ぎ

 
@府巡回相談の報告
Aまとめ

 
                      


巡回相談を生かした特別支援教育のシステム作り

T はじめに
 H市は、「特別支援教育推進体制モデル事業」の一つとして、15,16年度の年間にわたる推進地域の指定を受け、特別支援教育推進体制の整備を図っている。16年度からは、市内の小中学校全ての学校に特別支援教育校内委員会が設置され、校内コーディネーターが任命された。報告者は、15年度より市の巡回相談員として、校内コーディネーターと連携を図りながら、各学校の事例に係わる資料作成及び指導・支援を行うための指導内容や方法、校内体制づくりの工夫等について助言を行ってきた。また、必要に応じて、専門機関との連絡調整をした。特別支援教育校内委員会のコーディネーターが中心となり、市の巡回相談や府の専門家チームを活用しながら支援を進めている事例を通して、巡回相談員という立場から、本市の特別支援教育の成果と課題を考察していきたい。
U 事例
対象児児、小学校5年生、男児
A児の特徴
(1) 知的発達水準
WISC−Vの結果、全般的な知的発達レベルは平均的で、認知特性は、言語性IQが優位であったが、特に大きなアンバランスはみられなかった。しかし、学習活動の中では、低学年レベルの漢字が覚えられておらず、視写も正確さに欠ける。助詞の間違いや時制の間違い等が多く文章を綴ることが苦手である、等の学習上のつまずきがみられた。十分能力が発揮されているとはいい難い。
(2) 行動特性
語彙は豊富で、よく話すが一方的に自分のしゃべりたい事を話す傾向が強い。目に入ったものが気になり注意の転動性が強く、物事に集中しにくい。不器用で、思い通りにできないと、最後までやりきらずにすぐに止めてしまう。授業中は、手遊びが多く教師の指示を一度では聞けず、不規則発言や友達にちょっかいをだして授業の流れを乱す事が多い。忘れ物や落し物が多く、整理整頓が出来ない。友達との関係では、自分の思い通りにならないと、暴言や暴力がでる等のトラブルが多かった。
A児への支援
(1) 特別支援教育校内委員会で実態把握
 本市では、校内コーディネーターと巡回相談員、担当指導主事がメンバーの特別支 援担当者会議を開催している。初回の担当者会議で、巡回相談員が児童の実態把握の ためのチェックリストや「児童理解カード」の紹介、アセスメントをする際の留意点 について研修をした。
 今年度から校内委員会を設置した児の学校では、年度当初に児童の実態把握を 行った。担任が気づいた児童の課題になる行動を焦点化するため「児童理解カード」を活用した。校内委員会では、A児は、学校体制で取り組む必要があると判断 した。
(2) 市の巡回相談の活用
 本市では、巡回相談を希望する学校は、教育委員会と巡回相談員の在籍校に依頼状を提出し、巡回相談員と校内コーディネーターが日程調整を行い、巡回相談が実施される。巡回相談を、巡回相談員と担任との教育相談と考えている学校も少なくなく、巡回相談を実施する際には、担任への直接的な助言だけでなく、校内コーディネーターを中心とした校内体制の整備や特別支援教育への理解が進むように留 意した。
A児の保護者は、教育相談のニーズが高く、学校全体でA児の指導や支援に当たること、必要があれば担任だけでなく校内コーディネーターも教育相談に加わることは歓迎された。また、特別支援教育の視点で、より効果的な支援方法を考えていくために、市の巡回相談の活用にも積極的であった。
 A児の学校では、通常の学級での支援や指導について助言指導を受けるために巡回 相談を受けることにした。巡回相談員は、授業だけではなく本児の特徴が顕著にみられる清掃や終わりの会の様子を参観した。その後、校内委員会(校長、担任、教 務主任、養護教諭、校内コーディネーター)に参加し、A児に必要な支援を実施していくための「個別の指導計画」の作成に向けて助言をした。
※ 個別の指導計画の作成にあたって ―不注意、注意の転動性、衝動性に留意して
ア 全体的に落ち着かせるためには、1日の見通しを持たせることが大切であるので、予定表を見る習慣をつける。予定表はわかりやすく教科名が大きく書かれ たカードを黒板にはる。
イ 一斉の指示や説明をする時は、アイコンタクトや声かけにより注意喚起を促す。
ウ 座席は、気が散りやすいので、刺激が少ない前の方の教師の近くの席にする。
エ 苦手な漢字の学習は量的な配慮に加え、大きい升のノートを使用。一斉指導の中で、間違いやすい部分は強調して指導したり、腕を使って字を書かせて感覚をつかませたりする。
オ 授業中の不規則発言に対しては「名前を呼ばれてから」というルールをクラス全体で確認し、A児にはルールの必要性を理解させる。授業中、発表が得意なA児が活躍できる場面を作るようにし、その際には大いに褒めるようにする。
カ 行動を振り返り、どのような行動をとったらよかったか、ことばで表現させる。
  職員会議で校内委員会が作成したA児の「個別の指導計画」について、共通理解の場を持った。その後、保護者と担任と校内コーディネーターとで教育相談を実施し、「個別の指導計画」について共通理解を図った。
(3) 府の専門家チームの活用
 校内委員会は、「個別の指導計画」について評価を実施した。担任のA児に対する理解が進み、担任がA児の行動を冷静に受け止めることが出来るようになった。そのため、担任とA児との関係、保護者と担任との関係がよくなった。苦手な漢字の宿題も量を半分に減らすことで、何とか毎日やってくることができるようになった。しかし、興味のあるものをみつけるとそちらに行ってしまう、周りの状況を考えずにしゃべり続ける、気分のむらがあり些細な事や自分の思い通りにならないとカッとする等の傾向はあまり改善されていないことが確認された。
 このようなA児の状態から、医療との連携も視野に入れて、より専門的な指導助言を受けるために府の専門家チームに相談をすることになった。
専門家チームの構成メンバーは、医師、障害児教育担当指導主事(LDスーパーバイザー)通級指導教室担当者(特別支援教育士、臨床発達心理士)であった。校内コーディネーターからアセスメントの説明を受けた後、授業参観をした。その後、学校相談、保護者相談を実施した。医師の医学的な見地からのアドバイスや認知特性に対する指導についての助言を受けることができた。
※ 専門家チームの見解
ア 衝動性や不注意傾向が強く、情緒不安の傾向が強い。医師による医学的な診断を受け、必要があれば、服薬についても検討することが有効であると思われる。
イ 環境調整が必要である。
ウ WISC−V等の心理検査を受け、認知特性をふまえた指導をしていくことが有効であろう。
エ ソーシャルスキル等を中心に個別の指導を取り入れることも有効である。
オ 状況把握の弱さや人に対する共感性の乏しさ、人間関係に関する類推する力の弱さがある。
保護者も上記の点については、一致することができ、医療とも連携をとりながら、A児への支援を進めていくことになった。
(4) PlanDoSeeのサイクル
 専門家チームや巡回指導での指導助言を取り入れて、「個別の指導計画」を校内委員会で作成し、それを実際にやってみること、また、結果を評価するというサイクル作りを、校内コーディネーターと連携を図りながら実施した。
 A児は、専門家チームでの相談実施後、医療機関で高機能自閉症の診断を受けた。また、巡回指導員が、心理検査(WISC−V)を実施した結果、認知特性を考慮した指導やソーシャルスキルについて個別の指導を通級指導教室で受けることになった。
 専門家チームによる相談を受けてから3ヶ月後に、2度目の「個別の指導計画」の評価を実施した。授業中は不規則発言が少なくなり、落ち着いて学習が出来るようになった。通級指導教室の担当者と通常学級の担任が学習課題や友達関係について連携を図りながら指導した。しかし、相手の気持ちやその場の雰囲気がわからないという傾向は残しており、友達関係がうまく結べないところはあまり改善されなかった。WISC−Vの心理検査をみると、不注意傾向が強く、視覚−運動機能に弱さがみられたため、課題に取り組む前には、注意喚起を促したり、課題の量や時間の配慮をしたりしながら、意欲や達成感が持てるような取組をしたところA児には有効であった。
 保護者、担任、校内コーディネーター、巡回相談員、が参加して「個別の指導計画」の評価を実施した。医療や通級指導教室との連携を強めることやA児の気持ちを受け止めつつ友人関係を作るスキルを指導していくことなどが確認された。
 A児の現在の状況把握だけにとどまらず、常にその状況から次の最も必要で達成可能な目標を設定し、目標を達成するための具体的な支援方法を確認することを大切にした。また、評価日時を設定する事で、PlanDoSeeのサイクルが継続されるような動きを作っていった。
まとめ
 A児の事例は、児童が抱えている問題を担任教師1人の問題としてではなく、学校という機能の中で対処し、必要に応じて相談機関や専門機関と連携をとった例である。担任教師と保護者の信頼関係をベースに、相談の窓口を広げることで、よりA児に適切な支援が行えた。その際、校内コーディネーターが担任と保護者、巡回相談員が学校と保護者の間のクッション的役割や専門機関との連携調整役を果たすことができた。保護者も色々な立場の人との相談の中で、徐々に不安が取り除かれ、信頼関係や協力関係が築かれていったように思う。
 校内委員会での話し合いや「個別の指導計画」は必ず、教職員全体で共通理解をすることを巡回相談員は、校内コーディネーターにアドバイスをした。共通理解を図ることは、具体的な児童の支援につながるだけでなく、担任教師にとっては心理的支えになり、他の教職員にとっては、A児の事例を通して軽度発達障害やその支援や指導法についての理解を深めることに役立った。
W 本市の特別支援教育の成果と課題 −市の巡回指導員として
特別支援教育担当者会議の果たした役割
 本市では、校内コーディネーターと巡回相談員、担当指導主事が構成メンバーである特別支援教育担当者会議をほぼ月1回実施している。この会議は、昨年度より開催されており、各校のコーディネーターは、今年度の校内委員会の設置や校内コーディネーターの役割について、ある程度見通しを持って取り組むことができた。
 担当者会議で各校の取組の交流は大変参考になった。学校間で差があるのが現状であるが、各校のコーディネーターは、自校の実情に合わして、次にどんな取組をしていったらよいか見通しを持つことができた。これは、市内の学校全体のレベルアップにつながったと考えられる。
 巡回相談員は、担当者会議の中で、1学期は校内委員会の校内組織における位置付け及び、校内委員会の対象となる児童の実態把握について、2学期は、「個別の指導計画」の作成及び実際の支援や指導について研修を行った。それは、校内の特別支援教育の中心となる各校のコーディネーターの専門性のレベルアップにつながった。その際、児童の実態把握のためのシートやアセスメント表、個別指導計画の様式等、各校のコーディネーターが実際に取組を進めていく際に参考になる資料提供を心がけた。その結果、同じ形式を使用した学校が多く、市内の学校は資料を共有しやすく、小中の連携が取りやすい等のメリットもあった。今後、担当者会議で検討をし、より有効なものを作っていくことが必要である。
 市の特別支援教育担当者会議は、「実践交流の場」であるとともに、「研修の場」としての機能を果たしていた。今年度から新しく設置された特別支援教育校内委員会は、各校のコーディネーターが中心となり、手探りで児童への支援を進めているのが実情で、この担当者会議の果たした役割は大きかった。
巡回指導の果たした役割
 各校を巡回して相談活動をする巡回指導を開始した当初は、特別支援教育校内委員会が校内組織として位置付いていても、実際機能していない学校もあった。巡回指導を実施するにあたり校内委員会を開催してもらうなど、実際的な動きを作りながら、校内整備を図れるように心がけた。
 各校において、児童の実態把握(アセスメント)はできたのだが、実際の支援や指導をどうしていくかという「個別の指導計画」の作成が課題であった。巡回指導では、授業参観や担任等との相談の中で、今の状態を作っている原因について診断仮説を立て、指導の仮説を立てることがポイントとなった。認知特性や環境要因が違うと、同じような状態でも支援や指導の違いが生じてくる。そこで必要に応じて、心理検査を実施したり、医療機関を紹介し連携をとったりした。巡回相談が相談にとどまらず実際的な支援や指導になるためには、保護者との相談も含め、PlanDoSeeのサイクルを作っていくことが必要である。各校のコーディネーターと連携を図って、1回の相談にとどまらず、継続的な相談活動が必要であると考える。



市の巡回相談で支援した中学生のケース
 

T はじめに
 I市は人口約5万3千人、小学校6校、中学校3校の市である。15,16年度特別支援教育推進体制モデル事業推進地域の指定を受けた。
ここでは、市の巡回相談を実施し支援していった中学校の事例を通して、本市の特別支援教育を報告したい。
U 事例
対象生徒A(中学校 1年)
主訴
学 校  学習に対して集中できなかったり意欲をなくしたりしているときに、自分の持っている力を充分に発揮していくにはどんな手だてで支援をすればよいか
保護者 学校が本人について理解し、適切な指導・支援をしてほしい。本人にあった進学先はあるか。
Aの特徴(アセスメント票より)
(1) 学校、学級での様子
・机、ロッカーなどの整理整頓ができない。
・筆記用具など小物をよく紛失する。
・学級では気の合った多様なタイプの友達としゃべったり遊んだりしている。
・学級集団の中では、一緒に行動する事ができる。
・クラブ(理科部)の友人関係も良好で活動には参加しがんばっている。
(2) 学習の様子
・授業では自分の知っていることや、興味のあることは集中して取り組めるが、集中時間は短い。
・ノートは板書を見て書き写すのに時間がかかる。動作が遅いだけでなく、写すことへの意欲も低いように思われる。
・作文は短いものなら書けるが、ひらがなが多い。文字の間違いや助詞の間違いが見られる。
・不器用さも見られる。
・運動は苦手で、筋力も弱い。
Aへの支援
(1) 校内委員会で
保護者の学校に対する本生徒の指導、支援の要望を受け止め、どんな支援が必要か検討を始める。
担任からは、教室での学習の様子などが報告され、支援の必要がある事が確認された。
(2) 市の巡回相談
Aのケースについて市の巡回相談が関わる。
 ・担任、特別支援教育コーディネーターと相談
     本生徒に対して支援を行うためにはAの知的水準や認知の特性などを把握する必要がある。
     そのためにはWISC−Vの検査を実施する必要がある事を伝える。
     保護者に検査を受けることを進める。
 ・検査を実施、WISC−V
     担任、特別支援教育コーディネーターに検査の様子を見てもらう。保護者は都合で欠席。
 ・検査結果を報告、教育相談
     知的水準 平均の下
     認知特性(WISC−Vで)
     言語性が弱い。
     注意記憶は有意味、視覚記憶は良いが全体的に弱い。
     処理速度が極端に弱い。
     常識や社会的理解は強い。
     知識の積み上げに弱さが見られる。
 ・担任、特別支援教育コーディネーターとの相談
     検査結果を踏まえてアセスメント票を作成、指導仮説を立てる。
 ・保護者に検査結果を元に教
(3) 府の専門家チームの巡回相談を受ける
 当日は担任よりアセスメント票により本生徒の説明をし、授業参観をした。その後保護者相談、学校相談を実施した。
 <専門家チームの見解>
 処理速度が極端に弱いと言う点から考えて、板書についての支援が必要である。視機能の問題についても考えてみる必要があるのではないか。
 学習について量の配慮と共に質の配慮も必要であろう。
 本生徒の思いやしんどさを受け止め、自信を失わせない取組をしていくためにも、ホッとする場所を作っていくことも必要である。
 今後の進路の事を保護者が心配されているので、ていねいな相談をしていくことも大切である。
(4) 学校、学級での具体的な支援と配慮
 巡回相談を受け、校内委員会で本生徒の支援について検討する。
   ・学習、学校生活について担任と話ができる時間をつくる。
   ・板書の写し方について担任の工夫を伝え相談して決め、担任の教科から実施し、他の教科へも少しずつ広げていく。
   ・学習の支援のために個別指導の時間をつくる。
   ・保護者との連携を密にする。
(5) その後の様子
・不定期ではあるが声かけをして、担任と話す機会を作っている。その中で総合学習での取組やクラブ活動のがんばりの様子を聞き励ましている。
・板書の中で特に重要なものに印を付け、その部分はノートに写す事を相談して決める。写せない事もあるが、がんばって写している。好きな教科(社会)は自分から写す努力をしている。
・補充学習として、冬休みに英語・数学を中心に実施した。
 学習面でのしんどさが目立ち、少し意欲をなくしている様子も見られる。
・家庭では大変ていねいな関わりをしておられるが、思春期を向かえ今までどおりの対応ではうまくいかなくなっている事が母親から伝えられた。
(6) 今後検討する必要があると思われること
・視機能の問題
・ホッとできる場所を作っていく事
・本生徒の自信を失わせない取組
V まとめ
 本事例は、中学校の事例で巡回相談員である筆者が小学校教員であるために、連携の難しさを感じながら関わってきた。今後に多くの課題を残したように思われる。本市での中学校での特別支援教育を進めていくきっかけにしたいと考えている。
成果
(1)  学校の特別支援教育コーディネーターを中心に専門家チームによる巡回相談に取り組むことができ、特別支援教育の取組み方が理解できた。
(2)  各学校での特別支援教育を進めていくきっかけになった。
(3)  各学校の特別支援教育を進めるために、市の巡回相談が役立った。
課題
(1) 市の巡回相談担当として継続的な支援をしていく必要がある。
(2) 中学生の発達段階に合わせた支援の仕方を工夫する。
(3) 特別支援教育校内委員会の機能を充実させる。
(4) 市の特別支援教育推進体制の整備をする。
W おわりに −本市の特別支援の取組−
15年度 
モデル事業として専門家チームの巡回相談を受けた。

特別支援教育コーディネーター連絡会議を行った。
会議には各校の特別支援教育コーディネーター研修修了者が参加し、巡回相談のケースの報告を行い、それぞれの学校での特別支援教育を進めるきっかけにした。
16年度 
市内、6小学校、3中学校に特別支援教育校内委員会を設置した。

名称、設置の仕方は各校の状況に合わせて工夫された。
特別支援教育コーディネーターが指名された。
モデル事業として専門家チームの巡回相談を受けた。
特別支援教育コーディネーター連絡会議を行った。
ケース報告をし、各校の特別支援教育の進め方などについて交流した。
2学期からは、市の巡回相談を実施した。
 ・授業参観の後、担任、特別支援教育コーディネーターとの相談
 ・保護者との教育相談
 ・ケースのアセスメント票作成の相談
 ・心理検査の実施、その後の教育相談など
17年度に向けて、以下のような取組が市教育委員会より示された。
(1) 市教育委員会
ア 市内各学校(小学校6校、中学校3校)の実態把握
  特別支援教育を必要とする児童生徒の実態把握
イ 市特別支援連携協議会
   (市教育委員会、小・中学校、福祉、医療機関、養護学校、大学等)
ウ 特別支援教育コーディネーター連絡会議
    市内小・中学校のコーディネーターの連絡、交流、研修、事例研究等
(2) 各学校
ア 特別支援教育コーディネーターの指名
イ 特別支援教育校内委員会の設置
ウ 職員研修
  ・特別支援教育、LD、ADHD、高機能自閉症等についての理解
  ・具体的な特別支援教育について、事例等での研修
エ 特別支援教育を必要とする児童生徒の実態把握
オ 「個別の教育支援計画」「個別の指導計画」の作成
カ 該当保護者への説明


  
市内の関係機関を結ぶ特別支援教育推進体制をめざして
 

T はじめに
 J市は大阪府に近く京都市に隣接する地域で、市内の小学校は10校あり全児童数は4,204名、中学校は4校あり全生徒数は1,843名で、今年度5月1日現在で、全児童生徒数は6,047名である。昨年、本市教育委員会が実施したチェックリスト によるLD・ADHD・高機能自閉症等の軽度発達障害についての調査によると、報告された児童生徒は200余名であった。これは約3%である。今後、十分な実態把握が 進めばさらに増えることが予想される。
 今回、巡回相談に事例を上げて取り組んだのは小学校が6校、中学校は1校であった。また、本市の教育センターには、非常勤であるが臨床心理士や精神科医、大学教授、 不登校児童生徒のための適応指導教室などの教育相談機能を持っている。そこで本市教育委員会と相談し、市内にある関係機関―市立教育センター、ことばの教室、保健センター、府立養護学校―と各学校とを結ぶネットワークを特別支援教育推進体制(試案) として作成し研究活動を試みて来た。
U 事例を通して
 ここでは検討したケースの中から中学生の事例についてまとめたい。
 中学校は教科担任制であり生徒指導上の問題事象もいっそう多いため、多忙な中、取組をどのように進めたらよいか少し不安があった。また、保護者から軽度発達障害のある子について学校に配慮や支援をお願い しても、「こういう子はいっぱいいる」とか「もっと大変な子がいる」 とか「特別なことはできない」と返されてしまい、がっかりしたという話も聞いていた。
 この経験から学んだことは、中学校では担任を中心に学年会で受け止めてもらえば取組ができること、また、学年に1名特別支援教育コーディネーターがいればいっそう進めやすいということである。そして巡回相談後の本人への支援は担任が中心であることは勿論であるが、ひとりではなく教科担任が分担して行えばよいことになる。そのために大切なことは、だれがどんな支援をするのか具体的に明らかにすることである。
対象児  A男 中学校1年
主訴
保護者:自信や意欲をなくしている。自分で学習を進めることが難しい生徒には、校内で具体的な支援をお願いしたい。この子への手だてが他の生徒にも 役立つような視点で考えていただきたい。
担 任:集団になじんで明るい表情で過ごしてほしい。苦手なことも少しずつやれるようになってほしい。
専門家チームによる巡回相談までの取組
(1) 担任との話し合い
 学校での学習や生活の様子、生徒の特徴、主訴の聞き取り
(2) 保護者(母親)からの聞き取り
 主訴、家庭での様子、生育歴、相談歴、家庭での支援についての聞き取り
(3) 医療機関・専門機関の担当者と連絡
 保護者の了解を得て3ヶ月前の検査結果を資料として提供を受ける
(4) 通常学級での生徒観察
 教育センターの臨床心理士、市教育委員会指導主事、学校長、校内コーディネーター、と共に授業参観(本人の観察)
(5) アセスメント票の作成
 担任と共に、特徴を示すエピソードやノートや描画も資料として準備
(6) 巡回相談前日の打ち合わせ
 夕方、短時間であるが巡回相談員が市教委指導主事と共に学校を訪問担任や同学年のコーディネーターと最終打ち合わせ
(7) 教育センター相談担当者と連絡
 相談当初から今日までに把握された本人の課題や変化について意見を聞く。
A男の特徴
(1) 学校・学級のようす
 じっと座っている。目立たない。いやいや学校に来ている感じがする。
 小学校高学年で「いじめ」にあったことがある。
 眉間にしわを寄せる表情が多いが、友達と話している時は少し笑顔も出る。
 忘れ物が多いので母親が援助しているが提出物はなかなか出せない。
(2) 言語・コミュニケーション
 コミュニケーションができないわけではなく、小さい声でぼそぼそとしゃべる。
 1学期は、教師の方から問いかけると「うん」「はい」と言うくらいだったが、2学期は伝えなければならない事や興味あることについては話している。
(3) 学力・成績
 英語は100点満点の半分は取れる。(担任の担当教科)
 家庭では母親と兄が学習の援助をしている。
 美術が得意でその時間は良い表情である。音楽鑑賞は好きだが演奏は苦手。
 理科の実験レポートなどは全く書けない。
 体育は特に苦手で嫌な教科だという様子である。
(4) 諸検査結果
 WISC−V知能検査(平成16年8月実施)知的な遅れはない。
 言語性IQ<動作性IQ … 有意差あり
   所見:不安が強い。手順(ステップ)を構成しにくい。
       知覚統合の力が言語理解力より優れている。
       ゆっくりペースで時間がかかる。記憶が苦手である。
(5) 身体・運動面
左ききである。
 幼稚園のとき、両足でピョンピョン跳ぶことが難しかった。
 体育では種目によって「着替えるのがいや」と頭痛、腹痛を訴えることがある。
 バスケット等で友だちと一緒にすることは好きだが、柔道など個人技は嫌い。
 体育大会では団体種目でペースを合わせることが難しい。
(6) 興味・強い面・指導に利用できる面
聞いただけでは記憶が消えてしまうが、視覚情報があると分かりやすい。
 視写や模写ができ、その活動を通すと記憶に残りやすい。
 美術が好きである。・趣味は映画鑑賞
 自分から聞くことはためらうが、ことばでやりとりして説明すればできる。
専門家チームによる判断
(1) 言語性LD(読む・書く・推論する)
(2) 運動が苦手である
(3) ADHD(不注意優勢型:ADD)
(4) 自尊感情の低下
当日の評価
(1) 「特別なことはしていない」と言われているが、1年でこの生徒の状態が良くなって来ている。(3学期の始業式は明るく登校した。)
(2) 担任の理解と配慮を中心に、学年の先生達のコミュニケーションがとれているので、本人から話ができる先生が他にもいることが支援になっている。
(3) 家庭での支援と本人の努力によって「読み書き」のLDが分かりにくいほど力をつけている。
巡回相談後の取組
(1) 保護者を交えた報告会
 次週の放課後に巡回相談員が学校を訪問して、指導仮説をもとに母親を交えて報告会を持った。校内からは担任、学校コーディネーター、学年のコーディネーターの参加で個別指導計画作成のための具体的な話し合いをした。短期目標(3学期の目標)と手だてを示して実践し、年度末に評価するPlan―Do―Seeのサイクルで有効なものとし、次年度へ引き継ぎたい。 (資料は次ページ:個別指導計画3学期)
(2) 市のコーディネーター研修
 このような巡回相談の経験を他校にも広げるため、本市教育委員会と協力して学期に1回校内代表者会議を実施した。そこでは自校の取組として担任と校内のコーディネーターが報告し、関係機関の講師によって指導助言や講演会を内容として来た。
V おわりに −成果と課題−
 この巡回相談を50%の学校が経験することができた。また市のコーディネーター研修によって、軽度発達障害についての理解が広がり校内支援体制が徐々に整備されてきている。今後、それぞれの学校が巡回相談員と話し合いながら主体的に取り組めるようにしていきたい
 市内にある関係機関―教育委員会、教育センター、ことばの教室、保健センター、府立養護学校―それぞれと話し合いを持ち連携を図っていく
 ことを共通確認した。今後このネットワークを特別支援教育推進体制として機能させていくためそれぞれの機関の役割を明確にし、分担しながらも協力して進めていきたい。
 児童生徒のニーズに合わせ、保護者の期待に応える支援を具体化していくためには、教職員の意識変革がカギになる。私たちは軽度発達障害のある児童生徒の困難を理解し、的確な判断に基づき具体的で分かりやすい個別指導計画の作成に努力していきたい。